辻邦の棚   短編集
  「お金
 

 「オレは、お金が好きだ」

 小5だけど、オレはお金が好きなんだ。

 お金があれば、好きなものが買える。欲しいものが、何でも買える。好きなことが何でもできる。モールのゲームコーナーで、何度でもゲームができる。

 でも、オレは金持ちではない。

 一ヵ月の小遣いは、1000円。うちの小遣いの金額の決め方は、500円+学年100えん。つまり、五年生のオレは1000円で、三年生の弟は800円。

 それに不満はないけど、オレたちはバイトをして稼いでいる。家庭内バイトだ。

トトもママも仕事をしているので忙しい。

「家事は手分けして片付けましょう。そうすれば家族一緒にゆっくりする時間が増えるでしょう」

というママの提案で、家庭内バイトが生まれた。風呂洗い一回100円。食器洗い1回100円。学校の上履き洗い一足100円。

ご飯の時の手伝い、食器を並べたり、片付けたりはやって当たり前だから、バイトじゃない。

おれは、風呂洗いと上履き洗いをやることにしている。小遣いのほかに3000円もらえるんだぜ、良いビジネスさ。

 一年間バイト代を使わないで貯めてみな、36000円だ。お年玉級の金だ。

 お年玉は、くれる人が減るばっかりだからね。小田原の大バアバは入院しちゃったし、じいちゃんは死んじゃったし、大おじさんも大おばさんも死んじゃった。「大」とつく人は超高齢者だからね。減るのは仕方ない。

 だからバイト代は大切なんだ。

 とはいっても、使うのを一年も待ってられない。たいがい、その月のうちに使っちゃう。だって、ゲーム一回100円だぜ。30回なんてあっという間さ。

 風呂洗って、10分。で、ゲーム5分でパー!

 かっこいいだろ?

 

 「優斗くん、ちょっとお願いがあるんだけど」

 と、ばあちゃんに呼ばれた。

 玄関ドアに足は挟んでから、ばあちゃんは元気がない。

 「郵便を出してきてくれないかしら?できれば今日中にポストに投函したいのよ」

 「足、痛いの?」

 「うん。杖をつけば、少しは歩けるんだけど…。でもね…」

 ばあちゃんのこうゆうとこ、オレ苦手。

 頑張らないってゆうか、はっきりしないってゆうか、グダグダしてるとこ。

 「バイト代出すから」

 そうばあちゃんは寂しそうに笑った。

 「しかたないな~」

 と、オレははがきを受け取って、外に出た。

 ポストまで走って、往復10分かからない。

 はがきをポストに入れるとき、チラッとみたら、大きなサツマイモの絵の上にがんばってねと書いてあった。

 (ばあちゃんが友達を励ますんかい?)

 

 「はがき出してきたよ」

 って、ばあちゃんに言ったら、

 「ありがとう」

 と、百円玉を出した。

 「いらないよ、バイトじゃないから」

 「えっ?」

 ばあちゃんの目が、一瞬大きくなって、

 「ありがとう、親切にしてくれてありがとう」

 と、笑った。

 「また書いたら、出してきてやるよ、はがき」

 といって、オレは心の中で、

 (ばあちゃんから、金はとれねえ)

 と、カッコつけてみた。


   
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