『コロボックルに出会うまで』自伝小説 サットルと『豆の木』
佐藤さとる 偕成社
私が『誰も知らない小さな国』と出会ったのは20代前半で、日本児童文学者協会の事務局員として働きだしたばかりのときだった。
出版社からの献本だったが、読みだすとすっかり魅了されて、「これは自分で持っていなくちゃ」と、改めて買い求めたものである。
長編のファンタジーの草分けとなったこの一冊は、戦後の児童文学史を振り返るときの出発点とも言えるだろう。本書は、その記念すべき一冊を世に送り出した作者・佐藤さとるによる自伝小説である。
誰もが貧しかった戦後の日々、市役所に就職したものの、一足だけの靴が壊れ下駄履きで出勤したことを咎められて退職。その後中学校教員となるが、「日本童話会」を介して長崎源之助と知り合い、創作に取り組んでいく。師である平塚武二氏との出会いにより、同人誌『豆の木』を創刊。同人は、佐藤さとる、長崎源之助、神戸淳吉、いぬいとみこ、それに画家の池田仙三郎、戦後日本の児童文学界の一角を担うそうそうたるメンバーである。
楽でない生活の中で、仲間との創作に打ち込む日々が瑞々しく描かれ、新たな時代に向かう児童文学の状況が垣間見えてくる。
このようにして、児童文学の世界が豊かな実りを獲得していったのだということを、読者は再確認できるだろう。書名のとおり、まさに「コロボックルに出会うまで」の日々が、作家・佐藤さとるを誕生させたのである。
2017年2月9日、88歳で旅立った佐藤さとるは、作品を通して子どもたちの心に生き続けていくに違いない。
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