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本の紹介  1

『シズコさん』

佐野洋子 新潮社(2008年)

 

母と娘の関係というのは、永遠に続く葛藤の繰り返しなのだろうか?

年老いて、痴呆の症状が顕著になってきた母を見つめながら、作者は幼いころからの母と自分の思い出をたどっていく。敗戦後、中国から引き揚げて、50歳で他界した夫亡き後、4人の子どもたちを育て上げた生活力旺盛な母…。その母に愛された記憶のない作者。4歳のとき手をつなごうとして振り払われて以来、母と心が通じないまま年齢を重ねてきて、そのことで自己嫌悪に陥ってもいる。

見栄っ張りで、自分が如何に上品な育ち方をしてきたかを、他人との会話の端々にさりげなくほのめかす母、作者はそんな母の姿をあっけらかんと辛辣に描写する。しかし、その底に流れているのは、言いようのない悲しみではないのだろうか。いちばん身近な存在である筈の母に愛されず、自分もまた母を愛せなかったという思いが、行間からささやきかけるように伝わってくる。母と娘の気持ちが向かい合い、寄り添うようにつながってくるのは、老人ホームに入居して心身ともに弱ってきたとき。互いの存在を認め、素直に受け入れられるようになる。気持ちの上で救われる反面、物悲しいものがある。シズコさんは、もう一人の佐野洋子なのだろう。そのことを、作者はしっかりとわかっているに違いない。

 

 
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