『楽しく百歳、元気のコツ』
吉沢久子 新日本出版社(2018年)
著者の吉沢久子さんは、2019年3月に百一歳で天寿を全うされたが、夫君の古谷綱武氏がこの世を去ってから、34年間一人暮らしを続けてきたのだという。
その間、新聞「赤旗・日曜版」の紙上で、17年近く連載したエッセイから、本書には33編が収録されている。
生活評論家として、日々の暮しを見つめるなかで、感じたこと、生活の工夫、楽しみ方など、飾り気のない文体に著者の人柄が滲み出ている一冊である。
第1章「百寿歳々」(2018年)
第2章「四季折々の思い」(2009年~2017年)
第3章「風の色」(1997年~1998年)
それぞれ日常の暮しと地続きのエッセイの根底にあるのは、卓越した生活者としての目線と周囲への感謝である。
日々の明け暮れで出会うさまざまな出来事を丹念に捉えつつ、そのなかに生きる自分も対象化して、時にユーモラスに綴られる文体は、現実を受け入れつつその先をも見つめているのだろう。それは、穏やかな語り口と共に、真っ直ぐに読者の胸に届き、共感を呼ぶに違いない。
戦争を体験している著者の、平和への揺るぎない思いも、全編を通して伝わってくる。
戦前、戦中、戦後と、主に女性の置かれた立場にも言及しているが、大所高所からの机上の議論を超えた指摘は読者に我がこととして納得させるものがあるだろう。
これ迄に経験したことのない長寿社会に生きる私たちにとって、『楽しく百歳、元気のコツ』を読むことは、次の一歩を踏み出す力となるに違いない。
表紙の写真が素敵である。