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お薦めの本  

『天使のかいかた』

なかがわちひろ(理論社 2017年)

 

天使って飼えるものなのかしら?

 

友だちは、それぞれペットを飼っているのに、さちは何も飼っていない。家はマンションできれい好きな母が許してくれないのだ。

ある日、野原で小さな天使をひろったさちは、家で飼うことにした。

天使の飼い方なんて教えてくれる人はいないし、図書館にも探す本はなかった。

それでもめげないさち。クッキーの空き箱で家を作り、さて食べ物は何かと聞くと、さちのお話だと言う。本の物語や他の人のことではだめで、さちが正直に自分のことを話すとおなかが満たされるのだ。

さちが呼ぶと天使は空からおりてくるが、透明なので他の人には見えない。

算数の授業で手をあげたり、跳び箱も飛び越せるようになる。いつでも呪文のように“天使がいるから、できるっ!”と思うことで力が湧いてくるのだ。

クラスに転入生があったとき、話したいと思っても、いつも大勢の友だちに囲まれているので、さちは話しかけることが出来ない。彼女は森山きのこというユニークな名前だ。

もうすぐある席替えで、さちはきのこちゃんと並びたいのだが、話しかけるきっかけがつかめないでいた。そんなことをさちは毎日天使に話していたのだが、ささいなことできのこちゃんはクラスで仲間外れにされてしまう。そして、ちょっとしたはずみで、さちは級友のきのこちゃんへの悪口に同意してしまうのだ。

それやこれやで、さちはしばらく天使と話していなかったのだが、あるとき天使の様子を見に行くと、ぐったりとしていまにもとけてなくなりそうなほど弱っていた。

小さな声で「ソラ、見タイ……」と言う天使を抱えて、さちは天使をひろった野原に行った。そこでの光景は、こう描写されている。

 

こうしてみると、空はなんて広いのでしょう。それどころか、とても深くて、地面に、ぎゅっとつかまっていなければ、空におっこちてしまいそうでした。

 

脱帽するしかない、小学生の少女が、身体いっぱいで感じたことが見事に表現されている。

 「サチ、オハナシ……」と、小さな声が聞こえて、さちはきのこちゃんのことが好きだと天使に打ち明ける。

次の日、天使が届けてくれたさちの思いはきのこちゃんに通じて、振り向いたきのこちゃんの笑顔に、席替えしたらとなりに座ろと呼びかける。きのこちゃんがうんと答えたところでこのストーリーは完結した。

最終ページには、めくりかけたページのカットがあって、さちが“あのね、ひろわれたがってる天使は まだいっぱい いるんだって さがしてごらん”とこちらに呼びかけ、小さな天使も“ウン”とうなずいている。これからまた、どんなお話へと続いていくのだろう。


 
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