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1「グッチー」
雨が降っていれば、 「嫌ねー、じめじめして。あたしまでカビが生えそうよ」で、 天気が良ければ、 「嫌ねー、カンカン照りで。シミが増えちゃうじゃない。皮膚がんの元よ」で、 曇っていればいたで、 「ぐずぐずした天気って嫌い!気圧が高いのかしら、頭が痛くなって来た」だ。 「フー、朝は食欲がわかないわー」 朝食を作る気もおきなくて、お湯を沸かしてみた所で、 「忙しいのにコーヒーなんて、入れてられないわ。インスタントで十分」 と、インスタントコーヒーをすするが、 「まずい。やっぱりインスタントはダメ」 と、コーヒといっしょに愚痴を飲み込む。 紀江の人生には、愚痴の種があふれている。 靴は足に合わないし、玄関のカギも合わないし、いつもの快速電車には乗り遅れるし、次の急 行電車は混んでるし、乗り継ぎは連絡が悪いしで、 「もうクタクタよ、イヤンなっちゃう」 と、職場に着くなり愚痴りっぱなし。 隣りの席の沙織が、溜め息をこらえて、 「でも、山田先輩の所は急行とか快速とか止まるから良いですよ。第一都内だし」 と、埼玉の実家から通って来る事を嘆いてみせて、ふーっと息を吐く。 それから、壁のホワイトボードの予定表に目をやる。 「山田、夏期休暇。8月27日から9月10日」 (あと3日の辛抱。先輩さえ休めば……、あたし達の愚痴の種が無くなるね) と、向かいの席の吉沢に目配せ。 それを知ってか知らずか、紀江の愚痴は止まる所無く続く。 「このパソコン、立ち上がりが遅いのよねー。あたしが仕事にかかるの邪魔しているみたい よ。それから、沙織ちゃん。その『先輩』って言うの辞めてくれない、なんだかすごく老けた気 分になっちゃうのよね。確かに、あたしはあんたよりこの職場では四年先輩だけど、あたし高卒 だから。四大出て来たあんたとはタメだし。仕事だって、あたしはコピーにお茶汲みでさ、あん たみたいに、企画とか、プレゼンとかないんだし。ほらほら、電話よ、たまには出てくれても。 ほんと、あたしばっかり……」 |
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