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3丁目 妖怪図録 8「イワガン」 |
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「ママー、早くー」 詩織が、ピョンピョン飛び跳ねながら、香織をせかす。 「そんなに飛び跳ねないで!また、下の藤本さんから電話が来ちゃうわよ」 香織が声を荒げて言った。 ひとり娘の詩織が生まれて直ぐにこのマンションに移り住んだのだが、階下の住人、藤本の苦 情には悩まされ続けている。 泣き声がうるさいに始まって、静かに歩け、飛び跳ねるな、物を落とすな、投げつけるなと抗 議の電話が絶えない。 賃貸なら引っ越す所だが、なまじローンを組んで買ってしまったばかりに身動きができない。 香織は、「育児を楽しむ」どころか、ストレスの連続だ。 夫も、最初こそ一緒に成って悩んでくれたが、今は見物人。 「無視しろ。構うな」から、「静かにさせれば良いだろう。詩織ももう三歳だ。しつけろよ」 と変わり、今では香織を責める。 しつけろと一口で言っても、三歳の詩織を静かにさせるのは大変なのだ。 テレビを見せていればおとなしいが、最近は、見た番組の真似をして、歌ったり踊ったりした がる様になった。 (詩織が大きくなるまで、実家に帰ってようかなー。あそこなら、一軒家だから……) と、別居が頭をよぎる日も有った。 そんな折、「リトミック教室」の広告を見て、お試しレッスンを申し込んだのだが……。 外出するとなると手間が多い。掃除は途中に成るし、洗濯物を干しっ放しも不安だし、着てい く物にも悩む。おまけに、「外好き」の詩織は、あの通り、香織が支度している間中、飛び跳ね るしで………。 やっとの思いで出て来たのだが、詩織は、レッスンをよそに、走り回っている。
あきれ顔の先生の視線が痛い。 ママの一人が、香織にささやいた。 「子供はね、くたびれさせるのが一番よ。こうゆうとこに連れて来てね。親も、財布もくた びれちゃうけど、ウフフ」 もう一人が、クスッと笑っていった。 「だけど、外遊びをたっぷりさせると、昼寝はしてくれるし、夜も早く寝るし、暴れないも の。『おとなしくしなさい』って怒鳴らなくて良くなった分、結局は楽よ」と。 香織は、ため息をついて眉をひそめた。 (ううん。家にいるのが、一番楽よ)
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