砂谷3丁目 妖怪図録 3「グッチー

 

妖怪 悪グッチー

種族 胞子族
特徴  グッチー、陰グッチーの姉。粘着質で一度取りつくと容易には剥がれない。脳神経を刺激する分泌液を出し、取り憑かれた者は、知恵の巡りが良くなり策略上手となり、上昇志向が増す。その刺激は快感となり麻薬同様に心を蝕む。周囲に及ぼす害も甚大。

 三人の子持ちともなると、忙しい。

 それでなくとも洗濯物が多いのに、三人同時に「嘔吐下痢」の風邪を引いちゃった日には、寝

る間もない。その子ども達が、やっと快復して、四日ぶりに学校と幼稚園へ行った。

 「さー、洗濯物の山を退治してやるぞ」

 寝不足ながら、奈緒は、やる気満々。

 「でも、その前に、コーヒーを一杯。久しぶりの一人の時間だもーん。お楽しみ!」

 そこへ、お客だ。幼稚園のママ仲間の沙織。

  玄関を入るなり、沙織は、          

 「わー、良い匂い!コーヒーね。ちょうど良かったわ。私、Prairialのブリオシュ買ったのよ」

 と、手に持った紙袋を振り振り、素早く上がり込んで、ダイニングキチンの椅子に座り込ん

だ。勝手知ったる態度だ。

 「子ども達が病気だったから……」

 奈緒は困惑しながら、コーヒーカップを出した。

 キッチンから続いた座敷には、まだ布団が敷きっ放し。夜の間に洗った洗濯物が、あちこちに

ぶら下げて在る。とてもじゃないが、他人には見られたくない乱雑ぶりで……。

 「いいじゃない、誰にも言わないわよ」

 そういって、沙織がクスッと笑った。

 (この「誰にも言わない」がくせ者なの)

 奈緒は、緊張しながら、コーヒを注いだ。

 と、沙織が一気にしゃべり出した。

 「お宅は、増しな方よ。星花ちゃんの家なんて!ここだけの話、ホコリだらけ。成城の億ショ

ンかなんだか知らないけど、あれじゃ高級マンションが泣くわ」

 そういって、沙織はコーヒーをすすり、

 「でも、もうすぐ引っ越すらしいから、掃除に身が入らないのかもね。ウフフ」

 と、奈緒の顔をチラッと見た。

 「あら、お引っ越し?転勤なの?」

 それを待っていたかの様に、沙織は続けた。

 「違う違う、あそこの旦那、弁護士だもの。実はね、星花ちゃんがね、田園調布の双葉をお受

験するんだって。受かったら、田園調布暮らしだって。アハハ、笑っちゃ悪いけど、あの子じゃ

ね!グフフ、あのママじゃ!」

 沙織は、身をよじって笑い転げた。

 奈緒は、意を決して、沙織に言った。

 「あたし、洗濯、溜まってて……」と。

 「えっ?ああ、お宅には、乾燥機無いですもんね。どうぞ、お洗濯、急いで」

 そう言い捨てると、沙織はブリオシュの入った紙袋を持って、帰って行った。