砂谷3丁目 妖怪図録 2「陰グッチー

妖怪 陰グッチー

種族 胞子族
特徴  グッチーの双子の姉妹。身が軽いので誰にでもひょいひょいと取り憑き、トラブルの種をまく。これに取り憑かれると、陰口を利きたくて堪らなくなり、直ぐに習慣になり、周りを不幸の渦に巻き込む事も有る。

 「あのー、係長。ちょっとお話が………」

 潤んだ目で聖子に見つめられると、誰でも、思わず仕事の手を止めてしまう。無視出来ないの

だ。立花もその一人だった。

 「何か?急ぐのかな?」

 「あ、今じゃなくても良いんです」

 聖子が、クビを傾げながら小さくうなずく。

 「じゃ、お昼休みに」

 と、立花は約束して、少しウキウキ気分。 

 転勤して来て間もない上に、立花は、妻の優子が弁当を作ってくれるので、昼食は、席で済ま

せる。

 (どこか、いい店が有るかな?)

 と、考えて、立花は、独身時代に優子と利用していたレストランを思い出した。

 優子が勤めていた会社が、この近くだったので、外回りのついでに待ち合わせをしたのだ。

 立花は、駅近くのイタリアレストランに、聖子を誘った。安い事で評判の店だ。加えて、時分

時なので、店は大混雑していた。

 声を張らないと、話が聞き取りにくい。

 「ここしか知らなくて………」

 日替わりランチを二人分注文して、立花が照れくさそうに笑った。そして、

 「話って何?僕のやり方、遣り難いか?」

 と、気になっていた点を聖子に聞いてみた。

 聖子は、曖昧に頷いて、

 「私は、そんなに………」

 と、言葉を濁した。言外に、肯定している言い方だったが。

 立花は、唇をかんで、眉をひそめた。

 (うん。意思の疎通が不足してたかもな)

 それを見た聖子は、上目使いで立花を見つめて言った。

 「ちょっと、更衣室で聞いちゃったんですけど、『今度の係長、生意気だって』って」

 女子の更衣室で、新任の立花を生意気と言えるのは、古くから居る女子社員達だろうと立花は

推測した。

 聖子が、立花の反応を伺って言葉を続けた。

 「なんか、冷たい感じがするって」

 言葉は、喧噪に消されて届かない。

 「何?ごめん、聞こえなくて」

 立花が、怒鳴る様に聞き返した。

 聖子は言葉をのんで、唇をかんだ。

 大きな声で報告するのでは、目的が違う。

 あくまでも、陰でこそこそと、意味深げに告げるのが、聖子のやり方なのだが………。

 「よーし、明日の朝、ミーティングをしよう。どうも、僕はせっかちでいけないよ。皆のやり

方も聞いて、最善の方法をとろう」

 そういって、立花がにっこりと笑った。

 聖子の目が、飛び出しそうに見開かれた。息をのみながら。