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連載 モモちゃんのさがしもの

 

その3

「モモちゃん、もう起きなよ」

 うす目をあけましたが、またまぶたがさがってしまいます。

  「ほら、モモちゃん」

 肩をゆさぶられ、やっとのことで両目をあけました。

 ゴリタが小さな目を三角にしてにらんでいます。

  「あのね、早く出発しないと、ジャングルから出られなくなるから。さあ、これ食べて」

 ゴリタは左手に持ったバナナをさしだしました。木漏れ日を浴びて、黄色く光

るバナナを見ていたら、モモちゃんはきのうのことを思い出しました。

 ジャングルに突然、山小屋風の家があらわれ、鍵でドアを開けて中に入った

こと。若いころのママが木彫りの鍵を作っていたこと。ママ、ママと叫んだけど聞こえなかったこと。

ドアがしまってしまったこと。ゴリタに抱かれて泣きながら眠ってしまったこと・・・・。

 モモちゃんは胸がいっぱいになって、また涙がでそうになりました。

「モモちゃん、おいしいよ。食べて力をつけなくちゃ。今日も歩くからね」

 ゴリタはバナナの皮をむくと、あっというまに一本食べてしまいました。

 モモちゃんは首をふります。ゴリタは鼻の穴をふくらませると、むいたバナナを

一本、モモちゃんの口元につけました。

 「いい?ジャングルでは、ぼくのいうことをきくこと」

 低くてこわい声でした。モモちゃんは一口かじります。とろりとした甘いバナナが口中にひろがりました。それはのどから体にしみていきました。なんだか元気が出てくるみたいで、あとは夢中で食べました。

 ゴリタは木の根元に置いてあったバナナのふさを持ち上げました。

 「モモちゃんが寝ている間にぼくがとってきたんだよ」

 ゴリタはふさからバナナをはがすと、すごいいきおいで食べます。モモちゃんもつられて、四本も食べました。

 「こうでなくちゃ。ゴリラモモがもどってきたよ」

 「チビ人形だったあんたにゴリラモモっていわれたくない」

 「今じゃこんなにでっかくなったし、モモちゃんの守り神だ。そんなにいばることないでしょ」

 ゴリタは毛もくじゃらの胸をぼんと一つたたいてにっと笑いました。黄色い歯にバナナの白い果肉がいっぱいついています。

モモちゃんは、

 「きったな」

 指さして笑いました。そして走りだします。

 ゴリタがあとを追いかけます。あっというまにゴリタに追いつかれてしまいました。

 森の中は、じっとりと蒸し暑く、たちまち汗がふき出ます。歩くたびに植物の濃いにおいがたちのぼります。

立ち止まって、手で汗をぬぐっていた時です。

シュルシュル 後ろでかすかな音がしました。

(なんだろう)

モモちゃんはふりむきました。

ヘビ、巨大なヘビです。肉厚の葉っぱの上をくねくねとはってきます。茶色の体にオレンジ色のしま模様。ゴリタのうでより太くて、長い長いヘビです。体がてらてらとひかっています。

ヘビは金色の目でモモちゃんを見あげます。

 「ギャー」

モモちゃんは金切り声をあげました。

 ゴリタはモモちゃんを抱き上げるとバアーッとかけだしました。

 シュルシュルル・・・。音がせまってきます。

モモちゃんはゴリタの胸の毛がぬけそうなくらいにしがみつきます。

 どのくらい走ったでしょうか。

突然、ゴリタの片足が葉っぱにすいこまれました。そして両足ともすいこまれました。地面に穴があいていて、落ちたのです。

その穴はゆるやかなカーブになっていて、二人はボブスレーに乗っているように、真っ暗な穴をす
べり落ちていきました。

 モモちゃんは、ゴリタにしがみついたまま目をつむっていました。

 何秒だったか、何分だったか・・・。

穴の前方に明かりがさしこみました。あっという間に,

モモちゃんたちは穴の外に投げ出されました。

 まぶしい光が目をさします。やっと、あたりが見えました。

 モモちゃんとゴリタがしりもちをついたところは青々と緑の雑草がはえている土手でした。見慣れた草、広い空。

一瞬、家の近くに帰ってきたかと思いました。モモちゃんは、空に向かって両手をひろげました。

「ジャングルを抜け出せた、ばんざい!」

「そうかなあ。よく見てごらん」

 ゴリタが腕組みしてあごを突き出しました。モモちゃんたちが落ちてきた穴はどこにもありませんでした。一面草がみっしりとはえていました。ずっと見渡すと、そこはまるで野外の野球場みたいでした。斜面になっている土手の下は平地で真ん中に二階建ての家が一軒たっていました。家は周りをブロック塀で囲まれています。正面に木でできた門がありました。

 「あそこにいってみよう。鍵で開くかも」

 二人は土手をすべりおりました。

 ブロック塀とブロック塀の間に木でできた両開きの戸があります。そこにがっしりした鉄の錠がかかっていました。時代劇に出てくるお侍の屋敷みたいです。ブロック塀と全然マッチしていません。

 「見て、見て、ゴリタ。これ鍵穴があるよ」

 錠前の真ん中に穴がありました。

 ゴリタがうなずきます。モモちゃんは急いで鍵をさしこみます。錠が錆びていて、うまく鍵穴にはいりません。

あちこち鍵の向きを変えていれてみます。

やっとのことで、ガチッと鈍い音がして錠が開きました。

分厚い木の門を押して、おそるおそる入ります。

目の前に現れたのは普通の家。広い庭。南向きの家の西にごつごつした木肌の柿の木があります。

となりはさるすべりの木。枝という枝にピンク色の花が咲いています。

ひまわりや葵の花も咲いています。木々の奥に竹やぶがおいしげっていました。

 「ここ、田舎のおばあちゃんちだ!」

 「そうなのモモちゃん」

 「わたしが四歳の時までいつもパパと夏にきた」

 「それからは来てないの?」

 「おばあちゃん、施設にはいったの」

 モモちゃんは開けはなたれた縁側へと走っていきました。

縁側のほんの少し前でモモちゃんはころんでしりもちをつきました。

 立ち上がると、縁側に突進。そのたびにモモちゃんは目に見えない何かに跳ね返されました。

 縁側へママとおばあちゃんが出てきました。ママは紺地に白の水玉もようのノースリブワンピースを着ています。

 おばあちゃんは白地に青、緑の細い縦じまのブラウスに黒いスカートをはいています。 

 ママは縁側にごろんと横になると、おなかをさすりました。

 おばあちゃんは、ママのそばに足を投げ出してすわりました。

 「ねえ、たまき、赤ちゃんが生まれたら、仕事どうするの」

 おばあちゃんが言いました。

 「続けるよ。育児休暇とって、仕事に復帰するつもり」

 「そう・・・・。ねえ、脚むくんでない?」

 おばあちゃんは、ママの脚をさすります。

 「お母さん、心配性ねえ。大丈夫よ。毎月、お医者さんに診てもらってるもの。赤ちゃん、順調

に育ってるって。楽しみ!」

 モモちゃんの胸ははりさけそうです。大声でママ、ママと呼びます。

 ゴリタがモモちゃんの肩をそっと抱きます。

 「もう、行こう。次の場所へさ」

 「いやだ。ここにいる」

 「あと一つ、家の鍵を開けなくちゃいけないんだよ」

 「いい、もういい。ジャングルから出られなくても、家に帰れなくてもいい」

 「ぼく、もう、知らないからね」

 ゴリタはモモちゃんをおいてのっしのっしと歩き始めます。

 モモちゃんは、両手と顔を見えない透明な壁にくっつけたままです。

 ゴリタはため息をつきながら、また引き返してきました。

 「モモちゃん、やっぱりだめだ。ぼく、ミッションを果たさなきゃ」

 ママとおばあちゃんは立ち上がりました。

 「まだ早いけど、夕飯の用意しようかね」

 「なに作るの?」

 「マーボーなすとひややっこ、きゅうりの酢の物は?」

 「食欲ないけど、赤ちゃんのために食べなくてはね。いい子、いい子、元気で、大きくなーれ」

 ママはやさしい顔をして、おなかに手をあてるとゆっくりなでました。

 「お母さん、雨戸しめようか」

 ママはゆっくり立ち上がると、戸袋に手をかけました。

 「あっ、だめ。わたしがするから、あなたは奥にはいって」

「あら、平気よ。赤ちゃんをかばってばかりいると、弱い子になるんだから」

 がらがらと雨戸が閉まっていきます。

「線香花火、今晩するのね。」

 「今、お父さんが買いにいってるわ」

 「おなかの赤ちゃんもきっと喜ぶわよね」

やがて雨戸が全部閉まりました。

 モモちゃんは、太い眉をつりあげてバリアの壁をかたくにぎったこぶしでたたきます。

 どこかに入る所がないかと家のまわりを走りまわります。

 夕焼けが遠くの山を赤く染め始めました。家の灯りがぽっとつきました。

 「アーン」

 モモちゃんは地団太ふんで、声の限り泣きながら、ゴリタに体当たりしました。ゴリタはたおれ

そうになりました。

 ゴリタはモモちゃんを必死でだき止めました。

モモちゃんはゴリタの腕の中であばれ、ゴリタの厚い胸をたたきます。

 「せっかくお母さんに、なんで?なんで?いやだよう。はなしてよう。ゴリタ、バリアを破ってよう。ゴリタのバカ、バカ。意気地なし」

 「モモちゃん、ゴリラにだって、出来ることと出来ないことがあるの。時の壁のバリアは超えられないんだ」

 ゴリタは暴れるモモちゃんを体全体で包みこみます。

 しばらくモモちゃんは、ゴリタの腕の中で泣きじゃくっていました。ゴリタは少しずつ静かになっていくモモちゃんの頭を、「よしよし」「よしよし」といいながらなで続けました。

 「さあ、行こうか」

 ゴリタはモモちゃんを抱いたまま歩きはじめます。 

ゴリタの腕のあいだから、おばあちゃんの家が見えました。涙で家がにじみ、ゆがんでいます。そして次第に小さく小さくなっていきました。

 ゴリタが土手を登っていきました。

「穴はどこだ?ジャングルに帰る穴。おかしいな、このへんだったと思うけどな」

ゴリタはあちこち地面に鼻を近づけてにおいをかぎます。草におおわれているのでどこに穴があるかわかりません。

「ふんふん、ここだ」

ゴリタは立ち止まり、手で草をかきわけます。

草の下には二人がすっぽりはいるくらいの穴がぽっかりと口を開けていました。

 ゴリタは片足を入れます。モモちゃんは土手の下をもう一度見ました。もう何も見えませんでし

た。また泣けてきました。

 「いくよ、モモちゃん」

ゴリタはモモちゃんを抱いたまま穴に足を入れます。

二人はそのまま真っ暗な穴に吸い込まれていきました。

 光がさしこんできます。まぶしくて目をつむりました。

 「モモちゃん、さあ、着いたよ。もうひとふんばりだ」

 目をあけるとそこはジャングルでした。
            つづく

 
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 これまでの話
その一 かぜしろ号

「モモちゃん、ジャンバー、着ていきなさいよ。まだ寒いからね」

 おばあちゃんの声をせなかに、モモちゃんは、玄関からすっとんでいきました。遊びにいく時いつも持っていく、リュックにつけた小さなゴリラ人形がかたかたゆれます。

 今日は学校で、いやなことがありました。

なかよしのはなきちゃんとけんかをしてしまったのです。公園であそぶ約束をしていたのに、公園に行けなくなったといわれたのです。

「あのね、ゆうちゃんとゆうちゃんのママがくるんだって。ほら、ママどうし仲良しでしょう。まだ寒いし、公園はだめっていうの。家の中でトランプしたり、お茶しようってことになったの。モモちゃんも来る?」

 とっさに頭をふってしまいました。

「前から遊ぼうって約束していたのに。うそつき」

「なんでそんなにおこるの、もう、モモちゃんのおこりんぼ」

 二人はツンツンして別れました。

 

 モモちゃんは、つまんないなと思いながら、

歩いていきます。胸にかけた小さな木彫りのペンダントにさわりました。モモちゃんの一番たいせつなものです。

(はなきちゃんにさそわれた時、どうして、ことわったのかな。いまごろ、何してあそんでいるんだろう。おしゃべりしながら、お菓子食べたり、ジュースのんでるかな)

 

木の葉の森公園につきました。

はるとくんと、北浦くんがたこあげをしていました。北浦くんのたこには、大きな目玉みたいな黒い丸が二つついていました。

はるとくんのたこは、トンビそっくりの形をしていて、茶色でした。

 風にのって、気持ちよさそうに空をおよいでいます。

 モモちゃんは、公園の入り口でしばらく見ていました。すると、はるとくんのたこが下に落ちてきました。

 はるとくんは、糸をひっぱたり、ゆるめたりしていましたが、とうとう、たこは地面に落ちてしましました。

 モモちゃんは、かけよっていいました。

「わたしにやらせて、あげてあげるから」

「ゴリラモモだ。だめだぞ。これはおれのたこ」

 ゴリラモモといわれても、いつもなら平気でした。でも、今日はムカッとしました。

 モモちゃんは、はるとくんのたこ糸をとろうとしました。

 はるとくんは、くるりとうしろむきになり、たこをかかえて、走って行きました。

「キャー、ゴリラモモからにげろ」

 北浦くんもにげていきました。

(あーあ、つまんない) 

モモちゃんは、ポケットに手をつっこみます。

がさがさっとしたものにさわりました。出してみると、おり紙でおった紙ひこうきでした。

友達と遊んだ時、つくったものです。

(みんなでひこうきに名前を書いて飛ばしっこしたっけ) 

はなきちゃんが「ゾラゾラ号」、ゆうちゃんは「あげは号」、あかりちゃんは「かわせみ号号」と名前を書きました。

モモちゃんは白のおり紙でつくったので、「かぜしろ号」と書きました。

あかりちゃんちの広いリビングで、どのひこうきが長く飛んだか競争しました。廊下まで飛んだり、ピアノの上にのったり、すぐ落ちたのもありました。いろんなことを思い出します。

 今、手の上の紙ひこうきはクシャクシャになっていました。

 モモちゃんはていねいにしわをのばします。

そして、飛ばしてみました。

「とべ!かぜしろ号」

 かぜしろ号は、少し飛んでから、すっと落ちてしまいました。

モモちゃんはあきらめません。アイロンをかけるようにすみずみまで指の先でしっかりとのばしました。

「よし」

 モモちゃんは、ひこうきを高くかかげて走ります。

「そーれ、かぜしろ号」

 空高くにむけて放ちました。

かぜしろ号はぐんぐん高く飛んで、林の奥へはいっていきました。

モモちゃんはあわてておいかけました。きょろきょろみわたしますが見つかりません。

林には、はだかの木々が空にむかってすっくすっくと立っています。

(あれ?)

大きなさくらの木の枝に、白いものがひっかかっていました。

 モモちゃんの紙ひこうきでした。

モモちゃんは木に登ります。木のこぶに足をのせて、また次の枝の根元によじ登り、時々、ずるずるっとすべったりしながら、やっとのことで、紙ひこうきに手が届きました。

そっと紙ひこうきをつかみます。どこもやぶれていませんでした。ほっとしながら左手にのせました。

「ノッテ、ノッテ、モモチャン」

 紙ひこうきが小さい声でいいました。

モモちゃんはびっくりして、紙ひこうきを見つめます。

紙ひこうきは、ゆさゆさっと体をゆらすと、うきあがりました。すると、みるみるうちに、お風呂場のバスマットに描いてある絵のひこうきくらいの大きさになりました。

「ハヤク、ノッテ」

 モモちゃんの体がふわりとうきあがり、あっというまに、ひこうきにのっていました。

「イイ?シュッパーツ」

 ひこうきは、そういうと飛びはじめました。

(どうして?なんで?)

 考えてもわかりません。

「シッカリツカマッテテ」

 モモちゃんはもう考えるのをやめました。

すごい風です。でも少し飛ぶとなれました。

下に畑が見えます。池も家も、パパがのりおりする駅も。おもちゃみたいに小さく見えます。

冷たい風が顔にぴしぴしあたります。どこまでも真っ青な空が広がっています。

大きく息をすいこみました。心がぐーんと広がっていくようです。わらいがこみあげます。

 はなきちゃんやゆうちゃん、ママたちが楽しくおしゃべりしていることなんか、どうでもいいことに思えてきました。

 ひこうきは、青空をきりさき、ぐんぐん飛んでいきます。どのくらい飛んだでしょうか。

「ガタン」

モモちゃんの体がゆれて、前につんのめりました。

見ると、ひこうきが下を向いています。

「あっ、たいへん、左のつばさがおれてる!どうしよう」

ひこうきは、左にかたむきながら落ちていきます。

「こわいよう」

モモちゃんは、さけびながら、体をおりたたみ、ひこうきにしがみつきました。

下の木々がだんだん大きくせまってきます。

「死んじゃう、助けて!」

 モモちゃんは、目をつむり、胸のペンダントをぎゅっとにぎりしめます。

「ドン」

 体ごとどこかになげだされました。あまりのいたさに、頭がぼうっとしました。

モモちゃんは、そのまま死んだように、はらばいになっていました。

 どのくらいそうしていたでしょうか。

やっとのことで、両手をついて、首をもちあげ、そっと目をあけました。

そこは、見たこともない場所でした。

うっそうとしげった森の中。木々の間に、オレンジや赤色、黄色や緑色の大きな果物がたわわにぶら下がっています。

色とりどりの原色の花も咲いています。シダや肉厚の葉っぱが地面いっぱいをおおっていて、そこにモモちゃんは、たおれていました。

じっとりした空気、草や花のにおいがたちこめています。まるで温室の植物園にはいったみたいでした。

体のあちこちが痛みます。見ると、ジーパンの右のひざのところがやぶれて、血がでていました。両足が自分のものでないように、こわばってうまく動かせません。

その時でした。

「ウオーン」「ガアアオ」

 動物の鳴き声がかすかに聞こえました。

モモちゃんは、痛いのも忘れて、体を起こして、目をこらしました。

木々のすきまから、なにかがじっとこちらを見つめているような気配がしました。

(あっ、ここは、ジャングル。熱帯のジャングルだ)

あのうなりごえはトラやライオンかもしれません。

(はやくにげなくちゃ)

 あせって、たちあがろうとしますが、足に力がはいりません。へなへなとすわりこんでしまいました。

 動物たちのうなり声が、だんだん近づいて

きます。

モモちゃんは、つばをのみこみながら、首からぶらさげた木彫りのペンダントをにぎりしめました。

「ガサッ」

モモちゃんのすぐうしろで、なにかが動きました。首すじに熱い鼻息がかかります。

「だれか、助けて!」

モモちゃんは大声でさけびました。   

              つづく    

 

 その二 モモちゃんのさがしもの 

 モモちゃんの心臓は止まりそうになりました。でも、勇気をふりしぼって

ふりむきました。

 そこには、パパくらいの大きさの濃い紺色の毛をしたゴリラが立っていました。

 モモちゃんを見て、にっとわらいます。どこかで見たことがある顔。茶色い

顔。すっとぼけた丸い目。地面につくほどの長い腕。もしかして、もしかして。

モモちゃんは、そばに投げ出されたリュックをたぐりよせました。つけていた

ゴリラ人形がありません。

 「モモちゃん、ぼく、ゴリタだよ。落ちた時、はずれちゃった」

 「あんた、どうしてこんなに大きくなっちゃったの?」

 その時「ガオッー、ガッ」

 動物のなき声が近づいてきました。

 「はやくにげなきゃ」

 ゴリタはモモちゃんの手をひっぱります。ジャングルの中は歩きにくいたらありません。足がすべり、つるに体をとられます。振り返ると、トラの背中が木の間にみえかくれします。黒と黄色のしましま模様。とがった牙。トラは鼻にしわを寄せてモモちゃんを見つめます。

 「もうだめ」

 モモちゃんがさけぶと、ゴリタがモモちゃんを片手でひょいとだきあげました。

 「ほら、にげるよ。ぼくにしっかりつかまってな」

 からみあった植物、たおれた木、大木からたれ下がった太いつる。

 ゴリタはヒョイヒョイと走ります。トラはうなり声をあげながらなおも追ってきます。とうとう追いつかれてしまいました。トラはモモちゃんをじっと見て、よだれをたらしています。

 「食べられちゃうよう」

 モモちゃんがいうと、

 「だいじょうぶだよ」

 ゴリタが目の前の木によじ登り始めました。

 「ゴリラって、木登りできるの?」

 五メートルほど登ると、頑丈そうな枝にこしかけました。下では、トラが鼻にしわを寄せて、憎らしそうな目つきでゴリタをにらんでうなります。

 ゴリタもまけずに、トラをにらみかえします。

 しばらくトラはそこにいましたが、やがて行ってしまいました。

 ゴリタはするすると木から降りると、モモちゃんを下におきました。

 「すごい、ゴリタ。すごいよ」

 「てれるなあ」

 ゴリタは手で頭をボリボリとかきました。そしてすぐにまじめな顔になるとモモちゃんをまっすぐみつめました。

 「リュックからはずれてゴリラ人形からゴリラになった時にね、ミッションがあたえられたんだ。いい?よーく、聞いて。一つは、モモちゃんを守ること。二つ目は、モモちゃんをここから無事家に帰すこと。ジャングルから出るにはね、四つのドアを見つけて、通らなければいけないんだ。ドアには鍵がかかってる」

「鍵?」

 モモちゃんは思わず聞き返しました。

「モモちゃんの胸の、その鍵だよ」

 モモちゃんは、ペンダントの鍵をにぎりしめながら考えこんでしまいました。わからないことばかりです。

「どうしてゴリタはそんなこと知ってるの?ジャングルを出るにはとか、ドアがあるとか・・」

「モモちゃんは、ゴリラモモっていわれているでしょ。だからぼくには、モモちゃんを守る義務があるの」

 ゴリタは毛むくじゃの胸をはり、右手でボンとたたきました。

「あのチビだったゴリラ人形がいばってる」

「今ではこんなに大きくなったんだ。文句いうなら、ぼく、一人で行っちゃうよ。ずっと家に帰れなくてもいいの?」

 ゴリタは歩きだします。

「ごめん、ゴリタ。一人になったら、すぐ、トラに食べられちゃうよ」

 モモちゃんは、ゴリタのごわごわした手をつかみました。

「よーし、行こう」

 葉っぱや木々のかげに、ドアがかくれていないか、目をこらします。しばらく行くと、バナナの大きな葉のかげに、なにか板のようなものがちらりと見えました。急いで歩き、葉をめくります。古びた木のドアがあらわれました。ドアのはしに鍵穴があります。

 「モモちゃん、鍵をさしこんでみて」

 モモちゃんは首からペンダントをはずすと、ドアの鍵穴にさしこました。かちりと音がしました。ドアをおすと、きしみながらあきました。ドアの奥は暗くてよく見えません。

 「中へ入って」

 ゴリタがモモちゃんの背なかをおします。

 「ゴリタもいっしょでしょ」

 「一人で入るんだ。ぼくは入れないよ。ここで待ってるから」

 「どうして?」

 「ジャングルのおきてだからさ。さあ、早く。トラがきちゃうよ」

 ゴリタはぐいとモモちゃんの背なかをおしました。すごい力です。モモちゃんはあっという間にドアの中へ。後ろでドアがばたんとしまりました。

 「ここは・・・どこ?」

 見たこともない家の中です。低い天井、壁、床、全部が木でできています。窓からこぼれる日の光。窓の外には木々が見えます。ジャングルの木でなく、針葉樹みたいです。芽吹いたばかりのやわらかい若葉がかすかに風にゆれています。気持ちのいい涼しい風が部屋の中にふきこんでいました。

 窓際に木のテーブルがありました。女の人が二人腰かけて、うつむいてなにかしています。こちらをむいているのは、白髪の人。背をむけている人は若い女の人です。

二人ともモモちゃんが入ってきたことに気がつかないようです。

 机の上に細かい木くずがいっぱい落ちています。

 二人は一心に手を動かしています。よく見ると、彫刻力でなにか作っていました。

  「できた。やっと、できたわ」

 若い女の人がはずんだ声で言いました。白髪の人がのぞきこみます。

 「まあ、めずらしい。鍵でしょ。わたしは長年、ここで旅行客の方に木彫りを教えてますけどね、鍵を作った方は、あなたがはじめてよ。みなさん、花やリスやネコなどを木彫りが多いですよ」

 若い女の人が布でみがきながらいいました。

「わたし、鍵が好きなんです。いろんなかたちをした鍵があるでしょ。鍵をさしこむ、ドアが開く・・・どんな世界にもつながっていて、どんな世界にも行かれるような。森の中、海辺のちいさな町、小人の国かもしれないし・・・」

 「楽しいこと。そんな鍵があったらいいのにね。ペンダントにするんですよね。どんなヒモを通しましょうか。くさり?皮?それとも麻ひもがいいかしら」

 女の人は立ち上がると、うでぐみをして考えこみました。

 「木だし、麻ひもが合いそう。麻ひもにします」

 言いながら横をむきます。

 モモちゃんは、胸がドキドキしました。写真で見た若いころのママそっくりです。

 「ママ、ママ」

 声をあげて、走りよろうとしますが、足が動きません。

 「あら、風がでてきたのかしら。ドアがあいてるわ」

  白髪の女の人は、モモちゃんの目の前でドアをバタンと閉めました。モモちゃんはいつのまにか、山小屋風の店の外にいました。ドアのノブをひっぱっても、あきません。

 「どうして、わたしを見てくれないの」

 モモちゃんは、ドアをどんどんとたたきました。

 うしろから毛もくじゃらの腕にだきとめられました。ゴリタです。

  モモちゃんはゴリタの胸の中で泣きました。

  ゴリタは太い腕でモモちゃんの背なかをなでてくれました。

 うしろをふりかえると、山小屋風の家は消えています。あたり一面、ジャングルがおいしげっていました。

木々のすきまから夜空が見えました。青や黄色の大きな星がかがやいています。

 モモちゃんは、ゴリタにだかれて、いつのまにか眠ってしまいました。
          つづく
 

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