『今日の風 今日の花』
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中村汀女 海竜社(1984年) |
中村汀女は明治33年熊本に生まれ、大正、昭和と三つの時代を生きた、昭和を代表する女流俳人の
一人である。内に深さを秘めつつ、平明に詠まれた句の数々は、しっかりと暮しに根付いた彼女の生き
方そのものであると言えようか。それはこの随筆集にも感じとることが出来る。
冒頭に置かれた「八十三歳の誕生祝い」から始まって、日常のなかでの小さな発見を喜び、俳句を介し
たさまざまな人との交流を穏やかな筆致で綴るエッセイには、作者の温かな人柄と俳句に向き合うまっ
すぐな思いが淡々と語られている。
題名の通り、今日の風に触れ、今日の花を愛でる作者の視線は、やわらかく読者を誘いつつ、各々の
暮しの足元を再確認させてくれるに違いない。
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