『ヘイトスピート「愛国者」たちの憎悪と暴力』
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安田浩一 文藝新書(2015年 |
読み通すのが辛い一冊だった。新書版だが、書かれている内容はとてつもなく重い。
著者がフリーの記者として、取材の過程で対峙してきた<在特会>(在日の特権を許さない市民の会)の実態と
、その対象にされた在日コリアンの痛みが具体的な事実を通して読者の前に明らかにされていく。
ヘイトスピーチは、一般的には憎悪表現とされてきたが、それは単純化され過ぎではないかと著者は言う。2013
年になって街頭での差別デモが過激化し、年末には流行語大賞にノミネートされるほどに広がっていく。同年3月
16日の朝日新聞の記事のなかで定義づけられたヘイトスピーチとは「人種や宗教など、ある属性を有する集団に対
し、おとしめたり暴力や差別をあおったりする侮辱的表現を行うこと」とされている。
相手を理解しようとする視点に立たず、一方的な思い込みによる偏見は憎悪につながっていく。ヘイトスピーチ
とは、単なる不快語や罵詈雑言とは一線を画した、社会的な力関係が背景にあって行われる挑発行動とも言えよう。
関東大震災のさなかに起きた流言飛語による朝鮮人の虐殺と根底を同じくするのではないか、と著者は指摘して
いる。
まだ記憶に新しいが、サッカーJリーグの埼玉スタジアムで行われた“浦和レッズ”対“サガン鳥栖”の試合で
、浦和のサポーター席に「JAPANESE ONLY」(日本人以外お断り)と大書きされた横断幕が掲げられた事件があっ
た。幸いファンの反応は素早く、選手からも残念だと。ツイッターへの書き込みもあって大きな問題として報道さ
れた。この結果、Jリーグはリーグ史上初となる無観客試合を浦和に命じ、横断幕を掲げたサポーターグループを
無期限の入場停止とした。このグループの言い分は「外国人観光客が増えているのでゴール裏の聖地を守りたかっ
た」と、人種・民族差別の意図は否定しているが、多くの関係者はレッズの韓国人選手への差別感情を指摘する。
東京の新大久保、大阪の鶴橋など在日コリアンが多く居住している場でのヘイトスピーチが、どんなに彼らを傷
つけ、恐怖にさらし続けているか、差別的なデモを行っている側は考えたこともないのだろう。インターネットで
の悪意に満ちた書き込みは匿名の為、なかなか突き止めることは困難だが、辛抱強く調査して当の本人に行き当た
った事例も報告されている。ネットの掲示板やツイッターへの書き込みも自分の身をさらさずに言いたい放題を撒
き散らす、一種の愉快犯であろう。自身の不満や不安を正当にむけるべきものにではなく、より立場の弱い層への
攻撃でうっぷん晴らしをして日々を送るという貧しさがやりきれない。
ヘイトスピーチに反対するカウンターデモが行われているのが救いであった。
なお、関連図書に『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件』中村一成(岩波新書)があります。
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