『その歌声は天にあふれる』 |
ジャミラ・ガヴィン 野の水生 訳 徳間書店(2005年) |
18世紀のイギリスを舞台にしたこの小説は、さまざまな運命に翻弄される登場人物を通して、人間の社会が抱え
込んできた深い闇にせまっている。
残忍な仲買人のオーティスと、その父におびえつつ生きるミーシャクの旅から書き起こされるストーリーは、一
片の甘さも含まない形で投げ出され、おぞましさそのものに立ちすくむ思いがする。過酷な現実を生きる少年た
ちのそれぞれの思いと葛藤を下地に、愛と友情が交差していくが、その圧倒的な迫力は読者を捉えて離さないだ
ろう。
社会の階級が厳然として、人々を支配していた時代。そのような社会を生きていくさまざまな人間模様。トマス
とアレクサンダーの音楽(ボーイソプラノ)を通して育まれる友情と苦悩も又、この物語を支える骨格の一つで
あろう。命がけで助け上げ「おいらの天使」となった赤ん坊アーロンとともに歩き続けたミーシャクの、最終場
面での静けさに胸を打たれる。
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