大人のためのブックレビュー
歌集「風信子」
石原 洋子 砂子屋書房 2019年9月14日 発行
一読、再読して、短歌という三十一文字の世界に沈潜している内面の豊かさに触れ、改めて我が日常を顧みたことである。
丁寧に、日々の暮らしを営みつつ、折々の光景を自身の目と心で咀嚼してゆく。それらを外界に向かって(あるいは内なる自分に向けて)開かれた呟きが、三十一文字の一首に結晶したのではあるまいか。
家人、友人、そして畑や庭にある物言わぬ植物たち、旅先の風景等、目に触れた一つ一つの出来事に向かい合いつつ、自身の思いを込めた歌が生まれたのであろうか。
外っ国の少女のように思いけり 庭に根付きし風信子の青
題名でもある風信子を詠んだ一首である。どうやら根付いたようだが、まだどことなく頼りなげな一株の花に作者の視線が注がれ、外国から来た少女のようだと捉えている。結句を«風信子の青»と体言止めにすることによって、印象が深まってもいよう。
余談になるが、ヒヤシンスを風信子と漢字表記するのも今回知ったことである。確かにその趣きがあるように思われる。
咲いたよと金木犀の香とらえしは 夫が先なりこの秋もまた
温かな家庭の一端が、さりげなく読者にも届けられ、共感を誘う。その一方で、
レジ待ちの列は遅々たり、風評とはこんなところで生まるるならん
現代社会が抱えている歪みをも、しっかりと目の端に刻み付けている作者である。
日高の地に移り住んで40年―、作者はあとがきで、人生を四季に例えれば冬にさしかかったところだが、心して冬の滋味も大切に味わいたいと述懐している。
家族を慈しみ、温かな人間関係をつなぎながら、夫君や子どもたちへの思いを率直に吐露している作者は、幸せの何たるかを熟知しているに違いない。
生活のなかから紡がれた歌の数々は、作者の思いと共に、読者の前に差し出されている。
青山 和子
日高市図書館サポーター「きんぎょだま」第32号より
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