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本の紹介

『このTシャツは児童労働で作られました』

シモン・ストランゲル 枇谷玲子(2013年)

  バングラデシュの首都ダッカのスラムに住む少女リーナとノルウェーのオスロに住む少女エミーリエ、二人の少女を巡る物語は、この地球に住む私たちが、どんなに不条理で危うい世界に生きているかを鮮やかに写しとっている。

Tシャツを買いにショッピングセンターに行ったエミーリアが、並んだTシャツの値札にシールを貼っている少年に出会うことから物語が始まる。シールには「このTシャツは児童労働で作られました。どうぞそでを通してみてください。これを作った子どもたちの代わりに。『世界を救おう』」と印刷されていた。

パソコンで『世界を救おう』のブログを見つけたエミーリアは、バングラデシュの工場で奴隷のように働かされている労働者の実態を知る。低賃金、長時間労働でトイレにも自由に行けない環境、そこには子供も働いていてリーナもその一人だった。

ショックを受けたエミーリアは、誘われたパーティーで好意を寄せていた同級生のマティアスと衝突して孤立してしまう。そしてそれ迄の生き方に疑問を感じ『世界を救おう』の活動に参加して、新しい世界を体験するなかでシールを貼っていたアントニオと心を通わせていく。

一方リーナは、働きづめの暮しのなかでレザという少年と出会いお互いに好意を抱く。しかし、工場で起きた事故の為(ドアの外からかんぬきがかけられていた)逃げられずに圧死する。

『世界を救おう』の活動は、次第に広がりをもっていくが、その過程で過激な方向に進んで、最期に縫製工場の倉庫に忍び込んで火をつけるという結末を迎える。

メンバーのなかに生まれた矛盾は解決の方向を見出せぬまま、読者の前に投げ出された形である。

思春期の只中にある若者たちの、社会と向き合いつつもどうしようもない思いと行動を通して、文明の波にさらされた日常生活に対する作者の違和感がストーリーの底に流れ、私たちに生きることの困難さと、そこから何を見出していくのかを問いかけてくる。

 

 

 
         
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