7月11日 更新

 児童文学作家 辻邦と その仲間 青山和子と生田きよみ のページです。
 
 連載 生田きよみ    短文 辻邦  
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 「この本」  好きだった、感動した、元気づけられた、お薦めしたい、そんな本


この本  10  辻邦・文

「小僧の神様」   志賀直哉・作

  1920年、約50年前に書かれた作品で、言葉や言い回しや状況など馴染みのないものもあり、子ども向けではないのですが、お薦めします。

 

 仙吉は神田のあるお店に奉公している小僧さんでした。お店の番頭さんたちが、「あのうまい鮨屋」についておしゃべりするのを聞いていて、仙吉は、こっそりツバを飲み込みました。自分も早く番頭さんになって、そんなお店に行ける身分になりたいなと思いました。

 それから間もなく、お使いに行かされた仙吉は、噂の鮨屋の前を通りかかりました。往復の電車賃はもらってあります。帰り道、電車にならずに歩けば、一個位は、鮨が食べられるかもしれない。そう思って、屋台の鮨屋をのぞいてみました。

 その屋台には、Aが先客で入っていました。そこへ、ひょいと顔を出した小僧さんが、店の台に並べてあったまぐろの握りに手を伸ばしました。「一つ六銭だよ」と言われて、慌てて手を引っ込めて、小僧さんは恥ずかしそうに店を出ていくのを見て、Aは、なんだか可哀そうになりました。

 ある日、Aが買い物をしようと入った店に、あの時の小僧、仙吉がいました。そこで、Aは買い物をし、その荷物の配達を小僧さんに頼みました。荷物を持った仙吉を連れて、Aは、鮨屋に連れてゆきました。小僧の仙吉に、鮨を腹一杯食べさせてあげようと計画したのです。Aは、鮨屋に代金を渡し、仙吉を頼むと買い物した荷物をもって帰って行きました。

 仙吉は、訳が分かりませんでしたが、お鮨を三人前平らげて、お腹いっぱいになりました。「又食べに来てくださいよ、お代はまだたくさんいただいてあるんですから」とお店のおかみさんに言われた仙吉は、ただむやみとお辞儀をして店を出ました。

 仙吉は不思議でたまりませんでした。自分が鮨屋で恥をかいたことをあの人はどうして知ったのかしら?だから、自分を鮨屋に連れて行ってくれたのだろうか?あんなにご馳走してくれて!

 もしかしたら、何から何までお見通しの神様か、仙人か。

 仙吉には「あの客」が忘れられませんでした。

 彼は、悲しい時、苦しい時に必ず「あの客」を想いました。想うだけで、慰めとなったからです。そして、いつかまた、思いがけない幸運をもって自分の前に現れると信じていました。

 小僧に鮨をご馳走したAは、変な気持でした。寂しいような気持でした。余計なことをしてしまったのではないか、あんなことをして、あの小僧に良かったのだろうかと。