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児童文学作家 辻 邦と 
その仲間の青山和子さん、生田きよみさんのページです

2018年 1月9日 更新

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 「この本」

 私は、子どもだったころ「本」を読むのが好きでした。

 「本ばっかり読んでないで外で遊びなさい」といわれても、

「また本を読んでる!」と叱られても、
本を読むのは止められませんでした。

 私が好きだった本、感動した本、元気づけられた本、お薦めしたい本。

「この本」はそんな本です。

 「この本」  2     辻 邦 ・文 
 「点子ちゃんとアントン」
エーリヒ・ケストナー作 池田香代子・訳(岩波少年文庫) 
 

この本について 

この本は、1931年に発表された本です。作者のケストナーは、詩人でもあります。ドイツ連保共和国

ザクセン州の州都ドレスデン生まれ。この物語の舞台は、ベルリンです。

昔のお話です、想像力を使って楽しみましょう。この時代の車 

 

あらすじ    

点子ちゃんの本当の名前は、ルイーズ。でも、皆はあだ名の「点子ちゃん」としか呼びません。点子ちゃんって変

なあだ名でしょ、生まれてすぐにはとても小さな赤ちゃんで、なかなか大きくならなかったから「点子ちゃん」です

って。いまは、普通の大きさの?女の子です。

点子ちゃんのお父さんはステッキ工場の社長さんで、たいそうなお金持ちです。ベルリンの中心地に部屋数10

の大きな屋敷を構えています。立派な車も持っていて、専用の運転手もいます。女中さんは太っちょのベルトさん。

そして、住み込みの養育係のアンダハトさん。養育係って?ママの代わりに、点子ちゃんにつきっきりで御世話をす

るというか…あれこれ言う人です。点子ちゃんのママはどうしているかって?お買い物に行ったり、美容院へ行った

り、友達とお茶をしたり、コンサートへ行ったり、パーティーへ行ったり、忙しいんです。

アンダハトさんが、養育係になってからというもの、点子ちゃんは疲れているようで、日に日に顔色が悪くなっ

いきました。無理もないんです。それには秘密がありました。パパもママも、夜は外出です。太っちょのベルタさん

が三階の自分の部屋に上がると、アンダハトさんは、点子ちゃんを着替えさせて外へ連れ出しました

ヴァイデンダム橋は、交通量の多い賑やかなところです。その橋の中頃で、「マッチはいかがですか」と哀れな声

でマッチ売りをさせられているのが点子ちゃん。ぼろぼろの服を着せられています。傍で眼の見えない母親役をしているが、アンダハトさん。アンダハトさんは、点子ちゃんにマッチを売らせて儲けていたんです。何のために?アン

ダハトさんは、ボーイフレンドにお金を貢ぐために点子ちゃんを使っていたんです!そんなお金を平気でもらう

ボーイフレンドなんて、ろくな男ではないと誰でも気づきそうですが…。

点子ちゃんは、変なことだなと思いましたが、パパとママが決めた養育係のすることだからそれに従うしかないと

思いっていました。それに、橋で知り合った靴紐売りのアントン君と友達になっていましたから。アントン君に会う

のは楽しい.

アントン君の家は、点子ちゃんとは大違い。貧しい人々が住む町に住んでいました。ぼろいアパートの五階です。

アントン君のお母さんは大きな手術をしたばかりで、ベッドから離れられません。お父さんも兄弟もいないアントン

君の家では、アントン君が働いて、家事をして、学校に行ってと、一人で何もかもするしかありませんでした。家賃

の工面までしなければならい。

生活環境の違う点子ちゃんとアントン君ですが、気持ちが通じ合い、仲良しでした。

ある晩、アントン君は、アンダハトさんが点子ちゃんの家の見取り図らしものをボーイフレンドへ渡すのを見て、

ピンときました。「よくないことが起こるぞ!」

アントン君は、太っちょのベルタさんへ電話して、「間も無く泥棒が入ります、用心してください」と伝えます。

ベルタさんは、すぐに交番へ電話して、おまわりさんを呼び、自分は伸し棒を抱えてドアの後ろに隠れました。

アントン君は、電話のあとすぐに、点子ちゃんのパパをオペラハウスに呼びに行き、点子ちゃんがマッチ売りをし

ている姿を見せました。

点子ちゃんのパパの驚きといったらありません。すぐさま、アンダハトさんをとっちめて、家に引きずって帰りま

した。

家に帰ってみると、またまたびっくり!家に泥棒が入っていたではないですか!

幸い、太っちょのベルタさんの活躍で、泥棒達はおまわりさんに捕まっていましたが。

そして…。

アンダハトさんは首になり、代わりにアントン君のお母さんが、点子ちゃんのお世話をして物事の良しあしを教え

てくれることになりました。勿論「住み込み」でです。アントン君も一緒。アントン君は緑色の壁紙の自分部屋を持

つことができるようになったんです。めでたしめでたし。

 

メモ

この物語には、各章の終わりに立ち止まって考えたことという作者のメッセージが書き添えてあります。「読み飛

ばして構わない」という但し書き付きで。私は読み飛ばして、最後まで読み終わってから、改めて読みました。なか

なか、感慨深いものです。たとえば、教室でカンニング時間があった。でも、罰を受けたのは当人ではなく隣の席の

子だった。「だからみんなは、ほかの人のせいで罰をくらっても、そんなにおどろいてはいけいよ。それよりも、み

んながおおきくなったとき、世界がましになっているように、がんばってほしい。ぼくたちは充分にはうまくいかな

かった。みんなは、ぼくたちおとなのほとんどよりも、きちんとした人になってほしい。正直な人になってほしい。

わけへだてのない人になってほしい。かしこい人になってほしい」と。ナチズムが台頭し始め」た時期です。

 

この本の思い出

このお話は、物語を読む前に、小学6年生だった私は、ラジオドラマで聞いた記憶があります。夕方、連続で放送

されるこの物語が待ち遠しくてたまりませんでした。嘘つきの家庭教師の言うことを信じる大人達に対して、「子ど

もの言うことを信じて」と悔しかった。家庭教師と泥棒であるボーイフレンドが悪だくみをして、計画を着々と準備

する様子が物語よりも丹念に描かれていたのだと今回気づきました。ハラハラ、ドキドキの時間だったよ。

子どもが物乞いすることが日常的にある時代だったので、それなりにリアリティーがある物語でした。

今も同じように読まれるかな…?

でも、ケストナーが、子どもたちに次世代を託す願いと子どもを信頼する気持ちは伝わると思います。

子どもの本の役割について考えさせられました。

 「この本」  1     辻 邦 ・文 
 「ニルスのふしぎな旅」上下
 ラーゲルルーブ・作 菱木晃子・訳(福音館書店)

この本について 

この本は、1906年・1907年に出版された本です。(100年以上世界中で読まれています)

作者のラーゲルルーブは女性で、スウェーデン出身。この物語の舞台もスウェーデンです。

ラーゲルルーブは1909年ノーベル文学賞を受賞しました。

 

あらすじ    

スウェーデン南部の田舎に住むニルスは、わんぱくで、時にはいたずらが過ぎて動物をいじめてしまう少年でした。ニル

スの乱暴には両親もほとほと手を焼いて困り果てていました。ニルスも、自分はお父さんからもお母さんからも愛されて

いないといじけていました。それでも、乱暴はやみません。

 ある日曜日の朝、教会にも行かないで、留守番を決め込んでいたニルスは、妖精のトムテを捕まえて悪戯を仕掛けました

。とこらが反対にトルテに魔法をかけられて小人にされてしまいました。

 小人にされたニルスは、動物たちの言葉がわかるようになりましたが、普段ニルスにいじめられていた家畜たちがニルス

に仕返しをはじめて、ニルスは大変!

 その頃、庭では、ニルスの家で飼われているガチョウのモルテンが、ガンの群れに「飛べない鳥!」とからかわれ、悔し

くて力いっぱい飛び立ちました。

 それを見たニルスは、無我夢中でモルテンに飛び乗りしがみつきました。モルテンは、お母さんが大事にしている太った

ガチョウだからです。逃がすわけにはいかないと思ったんです。

 これがきっかけで、ニルスとモルテンは、女隊長アッカの率いるガンの群れと一緒にラップランドを目指して長い長い冒

険の旅に出かけることになりました。でも、人間のニルスには困難と試練の連続。ニルスが沼地の葦の茂みの間で寝ること

ができるでしょうか?何を食べたらいいの?ニルスはモルテンの翼の間で休ませてもらいました。生の魚も生まれて初めて

口にしました。草の実、木の実、パンのくず何でも食べました。鳥たちの助けがなければ生きてゆけない。ニルスには感謝

の心が芽生え、自分も皆の助けになろうと頑張りました。ニルスは人間の言葉が理解できるので大いに役立ったのです。

 その後、トルテに「魔法を解いてやろうか」といわれた時も、仲間たちとのラップランドへの旅を選んだほどニルスは冒

険の旅に心惹かれていました。しかし、冒険に危険はつきもの、死にそうな目に遭ったのも一度二度ではありません。その

度、ニルスは仲間に助けられ、ニルスも仲間のガンの命を救ったり小さな動物を守ってあげたりしているうちに、小鳥や動

物に好かれ信頼される少年へと成長してゆきます。そして、帰宅の時が来ました。帰り着いた我が家に待っていたのは…?

お父さん、お母さんは?それは、読んでのお愉しみ。

 読者である私は、ニルスと一緒に空の旅と地上の旅を満喫しました。スウェーデン各地の様子。穀倉地帯あり、工業地帯

あり、海辺の町あり。様々な人の暮らしとそこにまつわる昔話を楽しみました。昔は、巨人やトロルや妖精が住んでいた国

です。興味深い話が沢山です。

 この本は、小さな物語がいくつも鎖の様に繋がった物語です。様々な物語それぞれが面白かったのですが、ひと際心に残

ったのは「マガモのヤッロ」の話でした。かいつまんで紹介します。

東ヨーク平野にあるトーケルン湖は干拓される途中でした。でもなかなか湖の干拓は進みませんでした。湖は水辺にすむ

生き物にとっては楽園でした。そこに住んでいた若いマガモが猟師の鉄砲に打たれ傷つき倒れたのですが、農家の奥さん

に助けられヤッロと呼ばれそこに住み着くことになりました。恐ろしい猟犬のセサールとも心を通わせ、この家の三歳の

男の子ペール・オーラと仲良くなりました。ヤッロがこの暮らしが好きになり始めたころ、湖に連れてゆかれ縄で縛られ

ました。ヤッロはもがいて鳴き声を上げました。その声を聞きつけたマガモの仲間がやってくると!待ち受けていた猟師

に打たれる…。ロッコは囮として生かされていたのです。その時、小さな人間(ニルス)がヤッロの縄を切って「ヤッロ

、逃げろ」と逃がしてくれた。セサールもそれを見逃してくれたのです。でも、三歳のペール・オーラは、諦められませ

んでした。湖にヤッロをさしに行きました。

ペール・オーラが居なくなったのを知った奥さんは、探し回りました。でも、日が暮れてもペール・オーラは見つかりま

せん。悲しみにくれながら奥さんは考えました。(人間と他の生き物も変わりがないかもしれない。マガモも子どもを失

ったとき心配だったろう)と。その時セサールが奥さんを外に連れ出しました。その先にいたのは、ペール・オーラでし

た。このことがあって、農家の奥さんと主人は考えました。(湖を干拓するのは有益なことに違いないけど…多くの生き

物が住んでいるこの湖でなくてもいいわ)と。そして、干拓の契約にサインをしないことにしました。

メモ

訳者があとがきで、私が印象に残った章についてこう書いています。

一部抜粋「訳しおえたいま、とくに印象に残っている章があります。ひとつは、十九章のトーケルン湖の干拓をめぐる話

です。地球環境の破壊が深刻化する現在ですが、すでに作者は百年も前から自然保護の重要性を説いていたのです。

―中略―あたかも作者自身が『人間もまた自然の一部であるのだから、おごり高ぶることなく、その知恵と勇気をもって

、地上のすべての生き物のために考えてほしい』と、私たちに訴えかけているように思える。

この物語は、スウェーデンの初等教育の副読本、地理読本として書かれたそうです。1980年に日本でテレビアニメ化され

て、何回も再放送がされたので、観た人もたくさんいるでしょう。私も、子どもたちと一緒にアニメも見ました。我が家

の子供たちは、現在40歳から50歳ですから、お父さんお母さん世代ですね。

今回、私が読んだのは、福音館書店刊(上巻515ページ下巻533ページ)分厚いものですが一気に読めます。地元の粕谷図

書館で借りました。今でも現役の本なのでしょう。

この本の思い出

「この本」の一冊目にこれを選ぼうと思ったのは、突然心に浮かんだからです。

すっかり忘れていましたが、この本は、私が自分で選んで買った最初の本でした。小学4年生の時、私は東京都千代田区

立「番長小学校」に通っていました。その1学期が終わった日、「夏休みだぞー」と学校の昇降口を出たら、目の前に、

本屋さんの出張販売の露店が出ていたのです。夏休みにお読みなさいと言わんばかりに、数々の本が並べられて…。お金

をどうしたかは記憶がありません。大急ぎで家まで取りに帰ったのでしょうか?私は越境通学で、今でいうJR信濃町と

いうところから隣駅の四ッ谷まで歩いて通っていたので、片道30分はかっていたと思いますが、走って取りに行ったので

しょうかね。いろいろ並んだ本の中から、私は地味な表紙の、上巻下巻に分かれた長い物語の「ニルスのふしぎな旅」を

選んだ記憶は確かにあります。子どもが買うには、安くない買い物だった覚えもあります。

今回調べたところ、1953515日発売の八崎源九郎訳「ニルスのふしぎな旅」上下(岩波少年文庫)というのが出てい

たという記録が見つかりました。きっとその本を買ったのだと思います。

長い夏休みの間に楽しみながら読んだのでしょうか?いいえ、多分その日のうちに、「ご飯も食べないで」と叱られなが

ら、「早く寝なさい」といわれても、一気に読み切ったのだろうと思います。私は、今回もそうしてしまいましたから。

 

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