ちいさなちいさなお話

これまでの話
今回の話

 はなさんは鳥みたいに飛んでいました。真っ青な空には雲ひとつありません。眼下にはこれまた

青い青い海が広がっています。空の青より少しみどりがかっています。ほとんど波もなく全体が

ゆったりとゆれています。

 はなさんは両手をまっすぐ前方に伸ばし、両足はまっすぐ後方にのばしています。空と海とはな

さんの体は水平です。

 はなさんはなにがなんだかわかりません。切り立ったがけの上から海めがけてとびおりたのです

から。はなさんは一センチも泳げませんでした。

 それが飛び降りたとたん体がふわっと浮いてしまったのです。

(どうして、どうして落ちないの)

 はなさんは悲しくなりました。お気に入りの赤い花柄のブラウス、ジーンズ、白いスニーカー。

お化粧もして身だしなみをととのえてきたのに・・・・。

 風もなく海が一枚の鏡のように光っています。いけどもいけども空と海。カモメ一羽、トンビ一

羽もとんでいません。

 はなさんの頭はだんだんぼんやりしてきました。体が空と海の青に染まっていくようでした。

 はなさんは自分をしかりました。やっぱり海に落ちたいと思いました。すると、はなさんの体の

バランスがくずれはじめました。なだらかな放物線を描いて、下へ落ち始めます。

(やっと、彼のところにいける・・・・)

 はなさんはほほえみながら目をとじました。

 なにかに足がつきました。冷たい水の感触でも硬い岩でもありません。だれかに抱かれているよ

うな・・・・。懐かしいにおいもします。

 目をあけました。彼です。彼ががっしりとはなさんを抱きかかえていたのです。つばひろのむぎ

わら帽子をかぶり、やさしい目ではなさんをじっとみつめています。

足元を見ると、50センチ四方くらいの島でした。そこに彼は立っていたのです。

 「会いたかった」

 はなさんは彼の厚い胸にしがみつきました。

「もう離れないから」

 すると彼はゆっくり左右に首をふりました。そして、もう一度はなさんをしっかり抱きしめる

と、はなさんの体を砲丸投げをするみたいに、ポーンと空に放り投げました。

 はなさんは空を飛んでいました。振り返ろうにも、海に落ちようにも体の自由がききません。

 はなさんの体は空と海の青に染まるように、水平にとんでいきました。

もくじへ戻る 表紙に戻る