9話

 ヤドカリじいさん

 ヤドカリじいさんは、海辺のフジツボがいっぱいついた岩のすきまから、おそるおそる顔をのぞかせました。

 目の前に浅瀬が広がっています。眼をこらすと、砂浜にはたくさんの貝殻がころがっていました。

 ヤドカリじいさんはごつごつした岩を下り、登り、また下りして、やっと砂浜にたどりつきました。

 「新しい家、新しい家、どーこだ」

 大きな目玉をきょろきょろさせて、貝殻をさがします。ふだん、海の中で暮らしているので、少し歩いても疲れるこ

と、疲れること。でもめげません。このごろ若いヤドカリたちは脱皮して、かっこいい貝殻を見つけて住んでいまし

た。じいさんはうらやましくてなりませんでした。

 ほんとうは、海の中で見つけたかったのですが、だめでした。ちょっといい貝殻を見つけても、ほかのヤドカリにみ

んなとられてしまうのです。そこでじいさんは考えました。浜辺で見つけようって。

  二枚貝はあちこちにあるのですが、巻貝はなかなか見つかりません。

 歩いていると、大きなカニがハサミをふりかざしてやってきました。

じいさんはあわてて貝殻の中にもぐります。

カニはじいさんの家をこわそうと、ハサミをがちゃがちゃうちつけます。

じいさんは、身をちぢめてふるえていました。そのうちカニはあきらめたのか、行ってしまいました。

 じいさんは、ふたたび10本の脚でそろりそろと歩きはじめます。

「あったー」

 目の前に巻貝がころがっています。新しくてがんじょうそうな貝。茶色の縞もようがとてもおしゃれです。

 じいさんはうれしくなって右のハサミでコンコンたたいてみました。

「だれだ、うるさいぞ」

 カーキ色の大きなハサミがぬっと出ました。じいさんよりはるかに若いオカヤドカリでした。飛び出た目玉が、

はっしとじいさんをにらみます。じいさんは一目散に逃げます。

 ザリザリ、ズリズリ、砂に腹がこすれて痛いこと、痛いこと。

 後ろからはオカヤドカリが。

 「あー、わしもこれまでか」

 目をとじたとたん、じいさんの体がすっと空中に持ち上がりました。

 なんとトンビにつかまえられたのです。

 トンビが降り立ったところは、海に突き出た岩場でした。

 トンビは岩の上にじいさんを置きました。

 「チェ、ボロ貝だなあ。これじゃ、中身も期待できないぞ」

 「そうじゃ、おっしゃるとおりで。わしなんぞ食ったら腹痛おこすぞ」

 じいさんは、貝の中で大声でわめくと、満身の力をこめて体をブルンとゆすりました。

 コロコロ コロリン、トップン、ヤドカリじいさんは海の中へ。

 懐かしい海水がじいさんの体をひたします。あまり深くない海の底に着地しました。

         日差しが幾筋も光の束になっておどっています。

 じいさんは大きな目玉をつきだして自分の貝殻をながめます。 

 あちこち欠けたり、古びてはいるけれど、まだまだ住めそうです。

 「まっ、いいか。あーあ、はらへったなあ」

 ヤドカリじいさんは、食べ物をさがしにゆっくりと歩きはじめました。

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