63 「ナミの海」 生田きよみ/作

  

 

 キノばあさんはもぐっていた海から顔を出した。

 夏の朝日が海面をてらし、キラキラ光っている。

 ばあさんは海に浮かべたおけの中に今とったばかりのアワビやウニ、サザエをいれる。

 ばあさんは岸にむかってぐんぐん泳ぎ、岩場にはいあがった。

 と、そこにアラメやホンダワラの海藻にくるまれて、赤子が眠っていた。

 「あれ、なんと、まあ」

 ばあさんが、赤子のおでこにかかった海藻をとりのぞくと、赤子がほちっと目をあけた。

 「4、5ヶ月だな。それにしてもどうしよう」

 ばあさんはおけをのぞきこんだ。

 アワビ3つ、ウニ5つ、トコブシ5つ、ワカメにテングサ。

 13のときから海にもぐって45年。畑が少しあるが一人の暮らしでせいいっぱい。

 ばあさんが迷っていると、赤子が歯のない口をあけてほっこりわらった。

 「どうにかなるさ」

 ばあさんは、赤子をひょいとだくと、おけにのせた。

 ナミと名ずけられた赤子はすくすく大きくなった。

 しかし、12になってもしゃべれなかった。

 ばあさんが海にもぐるとき、いつもついてきた。

 だれも教えないのに、泳ぎが上手だった。

 長い手足をひらひらさせて海にもぐった。ノミやカギを使わずにアワビやウニ、サザエを

とって、ばあさんをおどろかせた。

 海にもぐれない冬場、ばあさんは船主の家で網のつくろいなどをした。

 ナミにも教えたが、さっぱり。手先が不器用なのか、ちっともはかどらなかった。

 海にいれば、いきいきしているのに、ここではつまらなそうにあくびばかり。

 村の子供らがはやしたてた。

 「ナミは魚。魚の子。そいで泳ぎだけがうまいんじゃ。やーい、やーい、魚の子」

 夏のおわり、シケがきそうな風向きだった。

 ばあさんはこのところ、病にふせっていた。

 ナミは小魚をにたり、おかゆをたいてばあさんに食べさせた。

 米びつはほとんどからっぽ。

 そこへ船主がきた。

 「借金を、返しておくれ。あんたが漁にでられなんだら、ナミが出たらええ」

 ナミははじかれたように立ち上がると、走っていった。

 ばあさんは必死で追いかけ、いつもの岩場によじのぼった。荒い波が岩にたたきつける。

 ばあさんは声をかぎりにさけんだ。

「ナミー、ナミー」

 しばらくすると、腰に大きな麻袋をつけたナミが戻ってきた。

 どさっと、袋を岩になげてよこした。袋からたくさんのアワビやサザエがとびだした。

 ナミはばあさんにむかって、ほこっとわらった。

 たちまち、そびえたつ白い波がナミをさらう。

 と、波間にナミと大きな黒い影が見えた。

 ばあさんが目をこらすと、それは、イルカだった。

 ナミとイルカはぴったりとよりそって、海のむこうへ泳いでいった。

ったイルカだった。ナミとイルカはぴったりとよりそって、海のむこうへ泳いでいった。