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| 病院の門をでるとき、あいねえちゃんは桜の木の下で立ち止まり、満開の桜を見上げた。
「そうかなあ・・・・・」 シゲルが気のない返事をすると、あいがシゲルの頭に手をのせた。 「あなたはいつもそう。クールというか、なに考えてるかわからないときがある。わたしはね、桜の木が家のお守りだって信じてる。シゲルもそう思うでしょ?」
シゲルの頭にぱっと動物図鑑が浮かんだ。トシヤくんにいじめられても、動物図鑑を見たら忘れられる。元気がでる。 もう何百回も見ているので、動物の名前は全部覚えた。一番すきなのは、哺乳類食肉目。オオヤマネコ、ジャガー、ライオン、クロヒョウ、ユキヒョウ、アムールトラ、ベンガルトラ・・・・・・。 世界にこんなたくさんの動物がいるなんて。動物だけじゃない。鳥、魚、昆虫。数え切れないほどの生き物がいる。すごい。すごすぎる。いやなことがあると、シゲルはチーターになって、アフリカの草原を全速力でかける想像をする。そしたら胸がすっとして、意地悪なトシヤくんのことだって、がまんできる。 桜の花はきれいだなと思う。だけど、それだけ。なんでばあちゃんやねえちゃんが、お守りだのなんのっていうのかさっぱりわからない。 かあさんは死ぬ少し前、シゲルにいった。 「あいはだいじょうぶだけど、あなたのことだけが心配。ねえ、シゲルの宝ものってなあに?」 「動物図鑑」 「ああ、2歳の誕生日のプレゼントにかってあげたあれね」 かあさんは、色のうすいくちびるをあけて、ほほえんだ。 「そうか、動物園の飼育係、獣医さん、動物写真家、ペット屋さん、サファリパーク・・・。いっぱいなれるね。ああ、うれしいな」 かあさんは、細い腕をふとんからのばすと、シゲルの頭をなでた。 ねえちゃんが歩きはじめる。ピンク色の花びらが2人をおいかけるように落ちてくる。 そして、あいのセーラー服やシゲルのトレーナーにふわりとふわりとまとわりついた。 |