おかあの桜

 アイの村から小さな無人島が見えた。島には何百本、何千本もの桜の木があり、毎年見事な花を咲かせた。桜の季節

1週間だけ島へ渡る船がでた。

 アイは弟の太一をつれて船に乗った。船頭は漁師の茂平さん。村人はほかに大人8人と子供10人。みんなにぎりめし

のはいったつつみを肩からかけて、桜色にそまった島を見つめている。

 貧しい村人はこの桜見物を秋祭りと同じくらい楽しみにしていた。

 アイもそうだった。でも、今年はちがう。おかあは去年の暮れ、病気でなくなり、おとうは今、寝込んでいた。

おとうの看病、おじいの畑仕事の手伝い、洗濯・・・・。10歳のアイはもうくたくただった。

それでも桜を見にきたかった。おかあのひいじいさんがこの島に初めて桜の木を植たてという。

アイにとって、この島の桜は特別なものだった。

 船が島に着いた。茂平さんがいった。

 「今日の大潮は3時だで。2時半にはもどってこいや」
 

アイは太一の手を引くと小高い山を登りはじめた。

 「おかあが一番好きだった桜を見にいこう。おかあに会えるかもしれんよ」

 しばらく歩くと、太一はすわりこんでしまった。アイは太一をおぶった。3歳にして

は軽い弟に胸をつかれた。やっと山のてっぺんにきた。そこには、1本の桜の大木が

すっくと立っていた。枝という枝に満開の花をつけている。

アイはかけよると、木肌をなでた。

(おかあ、どうしたらいい?おとうは病気になってしまったし、

食べ物もあと少ししかない。ゆうべ、町から目つきの悪い人がきて、

じいちゃんとこそこそしゃべっとた。うち、町へ連れていかれるかもしれん)

 「ねね、はらへったよう」

 タイチがアイの着物の袖をひっぱる。2人は木の根元にすわるとつつみを広げた。干しいもとそば団子だ。

太一は小さな口をいっぱいにあけて食べた。にぎりめしを食べさせてやりたい。

それには町へ働きにいくしかないのか。太一はアイのひざに頭をのせて眠ってしまった。

どのくらいそうしていただろう。

「もうすぐ船が出るぞー。帰ってこーい」

 茂平さんの声が聞こえた。太一はまだ眠っている。太一に干しいもを全部食べさせたアイは、

立ち上がる元気もなかった。このまま、眠っていたら、おかあのところへ行けるかもしれん。

楽になりたい・・・・・。アイは目を閉じた。

 突然、桜の木がゆっさゆっさtっと大きくゆれて、枝が1本、落ちてきた。

目をさました太一が枝を拾っていった。

 「わー、きれい、おとうにあげような、ねね」

 アイは桜の木を見上げた。

 (おかあ、見とってな。アイは負けんから。約束する)

 アイは立ち上がり、太一をおぶうと船にむかって走った。

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