くぅばーたん 福になる33未来図を引く

 船越先生が、日に日に大きくなって来たお腹をさすりながら、教室の中を見回した。

 「後三週間で皆は五年生、先生ともお別れです。大樹、その『やった!』という顔は何?私か

ら逃げられて、嬉しい?ところがドッコイ、お別れの前に宿題の発表だよ」

 (なんか、宿題、あったっけ?)

 サーちゃんが、後ろの真帆ちゃんを盗み見た。真帆ちゃんは、知らないと首を振った。

 先生の声が、一段と大きくなった。

 「忘れたとは言わせない。一月の終わりに出したでしょ『将来の事を考えよう』」

 教室中が、ザワザワと大きくざわめいた。

 「何にも言わないから、私が忘れちゃったと思ったんでしょう」

 先生の目が、くるくると動いた。

 「残念でした、忘れていません。時間を上げただけ。充分時間はあったから、さぞいろいろと

哲学した事でしょうね。発表を聞くのが、グフフ、楽しみ!」

 「えー、発表するの!」

 前の席の大樹が叫んだ。

 「そうよ、一人ずつ前に出て、考えを聞かせてもらいます」

 「そんなの無理だよ」

 「無理なわけ無いでしょ、大樹。いっつも休み時間に大きな声で主張してるでしょ『オレの番

だぞー』「テメーずるするなー」って。あの勢いで、発表すれば良いのよ」 

 と、言って、言葉を切った。

 「ここからは、すごく真面目な話。耳掃除して、一言も聞き逃さないでよ。私は、可愛い皆

に、考える力と発表する力をつけてあげたかった。私の教師としての夢は、それ。『物事を深く

考えて、それをきちんと主張出来る子どもを育てる』少し時間が足りなかったけど……、もう時

間が無いし……」

 先生が、「どっこいしょ」と、椅子に腰を下ろして、話し始めた。

 「そう。ここだけの話、家の人には内緒よ。あたし、この三月一杯で、退職する事になって…

…。迷ったんだけどね……、それが一番良いかなーと思ってね」

 良いという割には、先生は寂しそうだ。

 「私の家は、お父さんもお母さんも、叔父さんも伯母さんも学校の先生でさ。両親共働きで…

……。おばあちゃんが私とお兄ちゃんの世話をしてくれた。そのおばあちゃんも、昔は小学校の

先生。回りの大人が,学校の先生ばかりで。だから、何となく『大人になったら、先生になる』

のが当たり前な気がして、私は、深く考えないで、小さいときから先生になるって決めてたの。

勿論、結婚しても、子どもを産んでも仕事は続ける。ううん、続ける運命だってね。だけど…

…、うちの旦那さん,北海道へ単身赴任中で……。それでね、学校辞めて、私も北海道ヘ行く事

に決めたの。私の未来図を引き直す。リセットじゃなくて、方向転換よ。それで、皆にも考えて

もらいたかったんだ、それぞれの『未来図』をね。どんな大人になって、何をしたいかって。明

日から、順番に発表してもらうからね」

 と、船越先生は、ニヤッと笑ってお腹をさすった。