くぅばーたん 福になる20夢は、ばーたん

 今日は、「大志館」の二月生まれの五郎さんと野口の父ちゃんの誕生パーティーだ。

 会場は、玄関前のホール。

 くぅばーたんは、キッチンで、料理の盛りつけの真最中。サーちゃんがお手伝い。

 「ねー、ばーちゃん。ばーちゃんは、何でばーたんになりたかったの」

 と、生春巻きをつまみながら質問。

 「お婆さんになりたかった?お婆さんには、だれでもなるでしょ、年を取れば」

 くぅばーたんは、キッシュを切り分ける。

 「ちがうよ、この間言ったでしょ、『ばーたんになるのが夢だった』って」

 と、サーちゃんは、ウインナーをパク!

 「そうそう、そうよね。あたしは、死んだばーたんが大好きだったのよ。憧れていた。一番

かっこいいと思ったのは、大勢のご飯を、作っちゃう所でね。それが、おいしくて!」

 「じゃー、ばーちゃんみたいじゃん」

 サーちゃんの手は、ポテトサラダにのびる。

 「それに、皆に親切だった。大問題も、ささっと、何でもない顔で片付けちゃう。死んだじー

ちゃんが、『うちの奥さんは、エプロンをしめた小さな巨人だ』って言ってた」

 「ふーん。それって、カッコいいかな?ちょっとシブすぎだよ。夢じゃないねー」

 と、キッシュに手を伸ばしたサーちゃんの手を、パシッと叩いて、

 「お味見はそれぐらいにして、料理を運んでちょうだい。落とさないでね」

 と、サラダボールをもたせた。

 ソロリソロリと、サラダを運ぶサーちゃんの後ろ姿を見送りながら、

 「ばーたんの凄さは、あの時代に、いっしょに暮らした人にしか、分からないわ。戦中、戦

後、どれだけの人がばーたんに助けられたか。話したって信じられないと思う」

 くぅばーたんには、今でも目に浮かぶ。

 改築前の「大志館」の七つの教室には人があふれ、階段の踊り場に寝ている人も居た。

 玄関前のホールを食堂にして、一番多いときは二十家族、五十人以上の人が住んでいた。

 食料が少なかったあの頃、小麦粉でパンを焼き、その焼きたてのパンと米を交換してもらう。

時には、ニワトリと。

 「たまにパンが残ると、ご飯を蒸らす時、その上に乗せてあたためてくれたっけ」

 米粒の突いたふくふくのパンに、ザラメの砂糖をつけて食べた楽しさ。

 「あのパンは、体の弱っている人のおやつで‥‥‥、でも、あたしはいつも、一口かじらせて

貰えた!『あたしの大切な孫だもの、この位のえこひーきは、神様も許してくれるわね』って。

パンが貰える事より、ひーきしてもらえるのが嬉しかった」

 くぅばーたんのほほが、ひとりでに緩む。

 そこへ、タッ君が飛び込んで来た。

 「ねー、ばーちゃん。サーちゃんがお味見させてもらったってほんと?ずるいよー」

 「じゃー、タッ君は、これを味見してみて」

 そういって、切ったばかりのキッシュを一切れ渡した。

 「特別よ」と、ささやきながら。