くぅばーたん 福になる19社会性がない‥‥

 くぅばーたんは、流しに寄りかかって、目の前の出窓から、外を眺めた。

 今は冬。出窓にそっておかれたプランターの三色スミレが彩りを添えているだけで、殺風景な

風景がちんまりと見えるだけ。

 バス通りの向こうの団地の上に広がる青空を見て、くぅばーたんが呟く。

 「あれが、あたしの宇宙の全てよ」

 昨夜、娘の美鈴さんと、嫁の麗さんに言われた言葉が、心に重いのだ。

 「お母さんは、社会性がないから」

 隣の駅の駅前ビルの五階に準備中だった画廊を、即決で売ってしまった事を、二人は非難した

のだ。

 画廊の室内装飾を頼んであった麗さんは、

 「武蔵さんの絵を飾る画廊として、デザインしたんですよ。それを‥‥‥」

 デザイナーとして、悔しいと訴えた。

 隣町の幼稚園に勤めている美鈴さんは、

 「それも、よりによって、『幼研』に売るなって!いわば、商売かたきよ、うちにとっては。

お母さんも、うちの幼稚園の理事の一人なんだから、考えて欲しかったわよ」

 と、くぅばーたんが「幼児教育研究所」なる有名小学校受験の幼児教室に売った事に憤慨し

た。

 「それに、あのビルのエレベーターは小さいから、あそこで塾をするのは危険よ。地震の時ど

うするの!本当に、お母さんは、社会性がないんだから!」

 「社会性がない‥‥‥。あたしは?」

 思い出すたびに、悲しくなる。

 高校生の時、親代わりに育ててくれたお婆ちゃんが倒れて、高校を中退して看病したくぅばー

たん。

 お婆ちゃんを看取ってから、一年間、劇団の研究生として東京でひとりぐらしをしたのが、ゆ

いつの「社会生活」経験のくぅばーたん。負い目が有る。

 (お婆ちゃん、どう思う?)

 くぅばーたんは、フウッと溜め息。こんな答えが、聞きたくて。

 「自分の力を、過大評価するのは、傲慢ですよ。画廊を経営するのは、自分の力に余ると思っ

たから手放したんでしょ。それも知恵ですよ。これでよかったのよ」

 (でも、幼稚園のライバルに売ったから)

 「美鈴の幼稚園は、子どもを伸びやかに育てるという教育方針でしょ。お受験の塾は、ライバ

ルではないでしょ」

 (そうよね。教育の価値観が違うから。でも‥‥‥。やっぱり入園希望者は、減るかもしれな

い)

 「減ったら、どうなるかしら?」

 (利益が上がらなくて、赤字で潰れちゃうわ)

 と、くぅばーたんは考えて、ポッんと手を叩いた。

 「地代を貰わなければ良いのよ。あの幼稚園の地主はあたしだもの。税金分だけ貰う事にすれ

ば、園児が減っても、経営は楽よ」 

 それから、クフッと笑った。

 (税金の事考えちゃって!社会性、十分よね、あたし)