和子の「のどか塾」
のどかに、行こうよ!

おすすめ9 『三十五年前の話』(2)五右衛門風呂

   

  五右衛門風呂って見たことがありますか?鉄で出来ている平たい釜のような湯ぶね

に、四角い踏み板が浮いています。その板を片足で風呂の底に沈めて安定させ、もう

片方の足からそおっと入るのです。

 慣れない上に、赤ん坊を胸に抱えていますから、もうおっかなびっくり・・・・。

一人ではとても無理なので、夫が仕事から戻れないときには、母屋のおばあさんの登

場です。縁側の障子越しに、

「これからお風呂です。あと15分くらいしたらお願いしまーす」

と、ひと声かけると、

「はいよ、すぐに行くから。タオルを用意して、先きに入ってな」

という、打てば響くような返事。

 息子(大輔という名前です)を、洗い終わったころに、

「どうだや、もう出るかい?」

 ガラス戸越しに声がかかって、息子の入浴は終了。バスタオルに包んで受け取って

もらい、私が大あわてで着かえるときには、座布団に寝かされた大輔は、おばあさん

に身体をふかれていました。

 何十年も、畑仕事の合間に子どもや孫たちの世話をしてきたおばあさんにとって

は、なんでもない朝飯前のことなのでしょう。

「ほれほれ、おしろいつけっぺなあ」

と、話しかけながら、ベビーパウダーをはたいています。

 一度だけ、すっかり気持ちの良くなった大輔が、ふいにおしっこをして、おばあさ

んの手にかかってしまったことがありました。

「こりゃあ、若返りのくすりになるっぺよ。そしたら、大ちゃんのようないい男を見

つけっぺか?」

 ごめんなさいと謝るまもなく、おばあさんは大笑い。それ以来、身体をふき終える

と真っ先にオムツをつけてくれました。

 うす暗い湯殿の五右衛門風呂、初めのうちはこわかったけれど、モアーッとした湯

気のなかで、抱っこした息子とゆっくり身体を沈めると、筑波の風景と人情が身体の

奥までしみこんでくるようでした。