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おすすめ8 『三十五年前の話』 1972年の夏、夫の転勤で生まれて一ヶ月の長男とともに、茨城県の筑波に移り住む ことになりました。 現在は学園都市として発展し、周辺もすっかり都会になっていますが、当時は一面 に田んぼや畑の広がる農村地帯でした。筑波郡筑波町上大島という所です。 そこで住んだのは、夫が知り合った気のいい老夫婦の隠居所にするという古い家で した。以前は蚕を飼っていたのだそうです。ささくれだった板戸を開けると、土間に 続く小さな台所。広ーい板の間(今ならフローリングというのでしょうね)と、奥に たたみの部屋が二つ。夜は、ねずみが天井を走り回っていました。五右衛門風呂を見 たのも生まれて初めてでした。 新聞の配達は朝刊だけ。夕刊を取りたいと言うと、翌日の朝刊といっしょならとい うことで、当日の朝刊と前日の夕刊が一度に届きます。 水もすごかった! ある日洗濯をしていたら、突然洗濯機の水が茶色になっている のです。びっくりして大家さんに聞きに行ったら、あわてず騒がず、 「昨日、雨が降ったからだっぺよ」という答え。よくよく聞いてみたら、この家は水 道の蛇口はついているけれど、その水は近くを流れている川から、直接ホースで引き 込んでいるとのこと。そんな馬鹿な・・・、絶句する私に大家のおじいさんは言いま した。 「水道代はタダだぞ」 困りきった私を見て、親切な大家さんは母屋から長く長くホースを延ばして、我が 家の洗濯機につなげてくれました。翌日から、すすぎのときは「水をお願いしまー す」と言いに行くと、大家さんからの水が洗濯機に流れてきます。「終わりまし たー」と合図をすると水は止まりました。 広い庭をはさんだ母屋に向かって、洗濯のたびに声を張り上げる毎日でした。 のどかな話は、まだまだ続きます。 |