15話「わらぞうりの奥に」
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五十年も前の話。 おばあちゃん家のお便所は、暗い廊下のつきあたりにあった。古ぼけた木の扉は、ところどこ ろに地図のようなしみがある。出っぱっている取っ手をコトンと右にすべらせると、カギがはず れてギーッと戸が開くようになっていた。入ると、スリッパのかわりに、おばあちゃんの作った わらぞうりがおいてある。 そのころ、いなかでは、みんな庭にお便所があった。畑や田んぼの仕事から戻ったとき、はき ものををぬがないでそのまま用を足せたからだろう。おばあちゃんの家にも、庭のすみの南天の となりに外便所があった。 二年生のゆう子が、夏休みに初めて一人だけで泊まりに行ったときのこと。 いとこのなっちゃんと川遊びから帰って、おやつのすいかを食べた。からだが冷えていたせい か、すぐにお便所に行きたくなる。 戸を開けて、ペシャンコのわらぞうりをはいたら、足のうらで何かがもぞもぞと動いたような 気がした。 「なんだろう、虫がいるのかな?」 おしっこをすませたゆう子が、ぞうりをぬごうとしたとき、冷たいヌルッとしたものが足のう らに広がった。 「おばあちゃーん、何かいるよう」
おばあちゃんは、泣いているゆう子をかかえると、たたみの上にすわらせてサッとぞうりをは ぎとった。 「なあんだ、ところてんじゃないか」 笑いながらおばあちゃんがつまんでいるのは、半分とけかかったところてんだった。こわごわ のぞいていたなっちゃんが、クスッと笑っている。 「だれだい、こんなところにところてんをこぼしたのは」 「ちがうもん、なにか動いたんだもん」 ゆう子は赤くなって言ったけれど、そのときはそれでおしまいになった。
それからは、お便所の戸を開けるたびに、ゆう子の胸はドキドキした。おいてあるぞうりを、 そおっとひっくり返してみる。何もないただのぞうりだ。でも、はくと、足のうらからひざこぞ うにかけて、見えない何かがはいのぼってくるような気がする。きっと、わらの間に何かがかく れているんだ。 家に帰る日、ゆう子はこっそりぞうりを捨てた。 |