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春一番 春の日差しが暖かくて、いい気持ち。 なのに、奈々さんは、さびそう。 (あーあ、この町ともおわかれだな) 看護士の見習いとして、この町に来た奈々さんですが、仕事は失敗ばかり。 (友達も出来なくて………) 奈々さんは、故郷の街に帰るつもりです。 (仕事をがんばろー、一人暮らし、がんばるぞーって、思っていたのに) ポロリ一粒、くやし涙が、頬を伝って落ちました。 奈々さんは、自分が使っていた家具、本棚、電気炊飯器に電子レンジを積み上げて、 「ご自由にお持ち下さい」と書いて。 それから、町にお別れをしようと、坂を下って行きました。 と、そのとき、春一番の強い風が吹いてきて! 看板は、カタカタ飛ばされて………。 どんどん、坂を下って行って………! 花屋の店先のチューリップの鉢にぶつかって、ストップ。 そこへ奈々さんがやってきて。 「まあーご自由にどうぞだって!」 奈々さんは、一鉢、赤いチューリプを取りました。 そこに、また、風が吹いてきて、看板をふわり。 看板は、パン屋の店先のワゴン車の前でストップ。 そこへ奈々さんがやってきて。 「まあーご自由にどうぞだって!」 奈々さんは、焼き立てのパンを一本取りました。 そこに、また、風が吹いてきて。 看板は、ゴロゴロ、ゴロ。 酒屋の前の、ワインの前でストップ。 そこへ奈々さんがやってきて。 「まあーご自由にどうぞだって!」 奈々さんは、赤と白のワインを、一本づつ取りました。 「こんなに、『ご自由にどうぞ』しちゃって、クフフッ、いいのかな」 奈々さんは、とっても嬉しくて、思わずスキップなんかしちゃって! 「こんなに楽しい町だったなんて……」 奈々さんの心は、ウキウキ。 (もう少し、ここでがんばってみようかな) 「ああっ、大変!わたしの家具………」 残るとなったら、必要な物。「ご自由にどうぞ」されたら、困ります。 奈々さんは、急いで坂道を駈け上ります。 奈々さん、そんなに急がなくても、だいじょうですよー。 |