79 くぅばーたん52「武蔵さんのプレゼント」

 「ばーちゃん、話しがあるんだけど」

 と、やって来たのはター君。

 「だめですよ。もうすぐご飯でしょ」

 くぅばーたんは、薬味のミョウガを刻みながら、顔を上げずに言った。

 ター君は、調理台をながめて、

 「ばーちゃんちのおかず、何?」

 「豚肉。冷しゃぶにしたのよ」

 「あー、おれ、肉大好き。ここで晩ご飯食べるよ」

 そういいながらも、ター君の手は、お味見の獲物を狙っている。

 「あら、おやつをねだりに来たんじゃないの」

 そういいながら、くぅばーたんは、茹で上がったばかりの豚肉を一切れ、ター君の口に入れた。

 すると、ター君は、

 「ウマー、ウシー、ヒツジのジンギスカン」

 と、腕を振って踊った。

 「なんですか、それは」

 「僕の新しいギャグ。受けた?」

 「受けません。そんな下らないところばっかり、ジーちゃん譲りで、こまったもんね。ところで、用は何なの。ご飯のおかずを聞きに来たわけじゃないでしょ?」

 くぅばーたんは、五郎さんと二人で食べる予定だった冷しゃぶを、三人分に盛りつけた。

 「夏にさー、プールやらなかったじゃん」

 と、ター君は、デザート用にむいてあっの梨を、ポンと口に放り込んだ。

 「プールなら、もう、片付けました」

 「ちがうよ、お風呂のプール」

 「あら、そういえば………」

 ここ「大志館」は、昔、寄宿舎付きの学校だったので、十人は入れるの大風呂がある。

 今でこそ、各部屋に風呂場が出来たが、以前は、その風呂を、皆で使っていたのだ。

 今でも、子ども達は、時々入りたがる。が、風呂を洗うのが大仕事!それで、夏休みに、一度だけ、お楽しみとして湧かしていたのだが………。

 「武蔵さんの入院があったからね」

 今年は、すっかり忘れていた。

 「やろうよ、プール!オレ楽しみにしてたんだからね」

 「そうね、まだ暑いしね。明日やろうか。ご馳走つくって、ワインを開けて!」

 と、いって、くぅばーたんは口を押さえた。

 「ワインっていえば、武蔵さんのワイン!」

 地下室にあるワインの山。武蔵さんの物だ。

 カルフォルニアのワイナリーから、配当として毎年送られて来る上物ワイン。

 「武蔵さんの親戚が来た時『これは、武蔵さんのです』って、渡すの忘れたわ」

 「いいじゃん、もらっちゃえば。爺ちゃん先生も、そう思っているよ」

 「そうね、武蔵さんのプレゼントよね」

  そうとなれば、ここはやっぱり、勝利のダンスだ。

 「ウマー、ウシー、ヒツジのジンギスカン」と。