72話 くぅばーたん48「くぅばーたん鬼になる」

 くぅばーたんは、朝からイライラ、イライラ、不機嫌だった。

 気に入らないお客が、一号室、武蔵さんの部屋をかき回しているのだ。

 くぅばーたんは、噴火寸前の休火山。頭から、煙が立っているよう。

 お客は三人。武蔵さんの親戚で、武蔵さんの荷物を引き取りに来たのだ。

 「汚い部屋ね、よくもまあー、こんな所にすんでたもんね」

 と、女のお客がいい、

 「おまけに、ガラクタばっかりでさ」

 と、男の一人が言い、

 「『兄ちゃんは、アメリカで成功して来なはった絵描きだから、ほなこて良い暮らしをしてる

ずばい』なんていちゃって、うちのお袋、夢見たんじゃねえの」

 と、もう一人の男が言った。

 三人の話声は大きく、「大志館」中に響き渡って、嫌でも会話が耳に入って来る。

 「貧乏たらしい服しか無い」

 「こんなガラクタじゃ、売れやしない」

 「へぼい絵だねー」

 と、絵の悪口までいいだした。

 これには、くぅばーたんも、聞き捨てにはしておけない。

 「ここは、アトリエも兼ねたんですからね、それなりに散らかりもしますよ」

 と、女のお客に言い、次に男に言った。

 「ガラクタとおっしゃいましたが、ここは家具付きのアパートですからね、そのガラクタは、

私どもの物です。椅子一つ、お持ち出しにはならないで下さいね」

 そして、最後のとどめは、大声で!

 「何十年も音信不通。病気で入院しましたと連絡しても、見舞いに来るわけでもなく、手紙一

通、電話一本くれもしないで、なにが『親戚でござい』よ。本心から、武蔵さんを『成功した絵

描き』だと思ってるんだったら、ほっとこなかったでしょう?

 一応、法律上の相続人だと思うから、部屋の荷物も手を付けずに置いておいたのよ。欲しい物

もって、さっさと消えてちょうだい」

 顔を真っ赤にして、険しい目で睨みつけて!

 「鬼みたいだね、ばあちゃん」

 サーちゃんもター君も、一也君もミーちゃんも、裕信君も真一君も、目を丸くした。

 ところが、それで、引き下がるお客ではない。

 「大家さん、敷金とかは、返してくれんでしょうね」

 それを聞いて、くぅばーたんは爆発!

 「敷金ですって!四十年も住んで、敷金返せですって!そんなもんもらってないし、入院して

からの家賃も貰ってません。付き添いの広子さんの給料も、立て替えてます。

あなた方に、請求しますよ、いいですか!

 これを聞くなり、三人は飛び上がって、退散だ。

 その後ろ姿に、くぅばーたんが怒鳴った。

 「みそ汁で顔洗い直して、一昨日おいで」だって!