57 くぅばーたん35「最強のブラザーズ」

 (やべー、遅くなっちまたぜ)

 裕信は、急ぎ足で信号を渡った。

 (田代んちに、寄り道したから)

 ついゲームに夢中になりすぎて、気がついたら五時半。

 裕信の両親は、今日は組合の集まりで、帰りが遅くなる。

 それで、学童館へ、弟の真一を迎えに行くように頼まれていたのだ。

 学童館の玄関口で、真一はしびれを切らして、待っていた。

 「兄ちゃん、遅いよー」

 「ごめん、ごめん。ちょっとな」

 裕信は、照れ隠しに頭をかいてみせた。

 「兄ちゃんのばか。サーちゃんばあちゃんに、頼まれただろ」

 真一が、怒った顔で、ずんずん先を歩いた。

 「頼まれたって………、そうだよ、いっとうヤバいよ!」

 今朝、学校に行く時。くぅばーたんに、裕信は頼まれたのだ。

 「今日の夕方、谷さんの個展のオープニングパーティーが有ってね、皆で行くから。

「大志館」には、裕信君と信ちゃんと、広子さんとサラちゃんだけになるわ。

まさかと思うけど、サラちゃんのお父さんが、サラちゃんを連れ戻しに来るかもしれない。

その時は、裕信君、サラちゃんを守ってあげてね。その時は、直ぐに警察に連絡してよ」って。

 サラちゃんのお父さんは、赤ん坊を殴る極悪人だ。

 そいつから、サラちゃんを守る役目を、裕信は頼まれたのだ。

 午前中一杯、そいつをやっつける事で、裕信の頭は一杯だった。

 先ず第一の作戦。学校から帰ったら、急いで玄関のドアを閉める。カギもかける。「大志館」

のドアはたいがい開けっ放しなんだ。

 第二の作戦は、サラちゃん親子を、裕信達の家に隠す。夕ご飯は、裕信達の分をあげる。かー

ちゃんが『カレーを作っておくからね。真一と二人で食べてよ』って言ってた。それをあげて、

自分たちはカップ麺を食べる。これ、好物。

 第三は、替え玉作戦。真一に、サラちゃんの帽子をかぶせて、タオルでくるんで、バギーに乗

せておく。後ろ向きなら、きっとごまかせる。サラちゃんと思わせて、さらわせる。

 第四の作戦は、まだ考え中だったのに、給食の時、唐揚げのお代わりでクラスがもめて、ワイ

ワイガヤガヤやったら、忘れちゃった。

 裕信は、寄り道した事を、後悔していた。

 だから、八つ当たりで、

 「おい、急いで歩けよ。グズだな」

 先を歩いている真一の背中を押した。

 真一は、駆け出した。

 「まてよ、どうしたんだよ」

 裕信が、あとを追う。

 信号のところで追いついた裕信に、真一が涙の溜まった顔を向けた。

 「サラが、連れてかれたら、どうすんだよ。兄ちゃんのせいだからね」

 「お前……、一日中、心配してたのか?」

 真一は、こくんとうなずいて、裕信にすがりついた。