53話 くぅばーたん31「天使の顔」

 (お見舞いなんて、大嫌い)

 市営病院な帰り道、病院坂を小走りで駆け下りるくぅばーたんの頬を、泪が流れ落ちた。

 「この夏が、越せるかどうか……」

 そう言って、目を伏せた医者の顔が、目の前にチラつく。

 「大志館」の一号室に住んでいる武蔵さんが入院して、四ヶ月。直らない病状だときいてはい

たが、改めて言われると泣けて来る。

 (残りの時間を、家で過させてあげたい)

 くぅばーたんは、自分で介護するつもりだ。

 夕方、郵便局から帰った五郎さんに相談すると、五郎さんは、即座に反対。

 「くーちゃんに介護は無理。歳を考えて」 

 ぷりぷりと怒りながら、くぅばーたんが作った夕食は………。

 人参とキュウリとセロリのスティックに刻みキャベツにたくあん。サラミとのりの佃煮で、栄

養は及第点なのだが、寂しい食卓。

 五郎さんは、ご飯にのりの佃煮をべったりぬって、たくあんをかじりかじり食べた。

 そこへ、サラちゃんを抱いた広子さんがやって来た。

 すかさず、ご飯茶碗を抱えたまま、五郎さんは後ろを向いて、壁になった。

 サラちゃんが、五郎さんに人見知りをして、顔を見ると泣き出すからだ。

 「あなたたち、ご飯は済んだの?」

 と、くぅばーたんは聞いた。

 が、今日の夕飯は、「いしょにどうぞ」とすすめられないなと思っていた。

 広子さんは、それに返事をしないで、

 「あたし、家に帰ります」

 と、泣き出した。

 くぅばーたんは、ポリッと人参をかむ。

 広子さんは、泣き続けた。

 「あたしが居ると、皆さんに迷惑です」と。

 くぅばーたんが、バリバリセロリをかじりながら、

 「そんなことしたら、あなたを訴えるわよ。幼児虐待で捕まえてもらいますからね」

 と、広子さんを睨みつけた。

 (虫の居所が悪くても、それは言い過ぎ)

 壁になった五郎さんは、ハラハラ!

 「でも、あたしは疫病神で……」

 そんな風に思った事との有る五郎さんの心が、ちくりと痛んだ。

 それで、壁になってはいたが、小声で提案。

 「働くといいよ。何かできるでしょ」

 「介護士の資格は有りますが、サラが居ては、働きたくとも働けなくて」

 と、広子さんは、又めそめそ泣き出した。

 くぅばーたんの怒りが爆発!

 「なんて、後ろ向きな女なんでしょ」

 (いや、後ろ向きはぼく。男)

 と、五郎さん。

 「子どもをおぶって働きなさい。うちで」

 (えっ?そうか、広子さんは介護士……)

 五郎さんが、叫びながら振り向いた。

 「あんたは疫病神じゃない、天使だ!」

 こんどは、サラちゃんが泣き出した。