48 くぅばーたん26「オズの国へようこそ」

 「私は、だれ?」

 鏡に映った自分にきいて、

 「あなたは、海野広子さん。あなたの娘は、海野さくらです」

 と、自分で答える。

 (広子に………さくら)

 海で、偶然くぅばーたんに出会って、ここへ来てから、もうすぐ一週間。

 でも、一週間とは思えないめまぐるしい変化で、もう何ヶ月もたった気分だ。

 「全く違う人間に成って、別の場所で、新しい生活を送る」

 そんな、変身が本当に出来るなんて、それが、自分の身の上に起こる何て、魔法にかけられた

ようだ。

 「どうか、この魔法が、解けませんように」

 広子さんは、娘をしっかりと抱きしめた。

 「でも、この子は、さくらじゃない」

  
 夫の暴力から逃げる事ができるなら、

 この子の命を守るためなら、          

 自分は、本当の名前も、故郷も、

 思い出も捨てる事ができる。

 でも!

           

 そう思っているところへ、お客さん。くぅばーたんの孫のサーちゃんだ。

 「ねー、おばさん。『ケーキが焼けたから、来ませんか』って、おばあちゃんが」

 「ありがとう、すぐ行きます。そうそう、サーちゃんのおばあちゃんのこと、何て呼んだらい

いのかしら」

 「野口さんとかは、大家さんって呼んでるよ、そう呼べば」

 「そうか、あたしもそうさせてもらおう」

 「ねー、この子は、何て呼べばいい?

『さくらちゃん』じゃ長いし、『さくら』でもいいんだけど。

だけど、おばあちゃんが、友達の事、呼び捨てにしちゃダメって言うし」

 「そうね、どうしようかしら?」

 「さくらのサを取ってサーちゃんじゃ、あたしと同じになっちゃうでしょ」

 「それは、だめよね」

 「さくらのクをとって、クーちゃんじゃ、おばあちゃんといしょでしょ。

さくらのラをとって、ラちゃんじゃ変すぎ。ラララ、アララッ!って、いじめたくなちゃう」

 サーちゃんは、真剣に悩んでる様子。

 「そうだ、いい呼び方が有るよ。

さくらのサと、さくらのラをとって、サラ!

これなら、呼び捨てでもないし、かわいいよ」

 「サラ」と聞いて、広子さんは,驚いた顔をして、それから、にっこりと微笑んだ。

 「すばらしいわ、この子にぴったりの呼び方よ、ありがとうサーちゃん」

 広子さんに喜んでもらって、サーちゃんは得意顔。さっそく呼んでみる。

 「サラ、いい子にしなくちゃダメですよ。このお部屋はね、サーちゃんの大事大事のお部屋で

すからね、汚さないでね。もう少し大きくなったら、あたしがもらうんだからね」 

 壁一面に、「オズの国」が描かれた部屋。ドロシーに案山子にライオン。そして、ブリキ男。

四人の魔女と小人達。虹の向こうに浮かんでいるオズの城。

 サーちゃんは、この部屋のとりこだった。