33話 くぅばーたん11「くぅばーたんの黒魔術」

 「いつ来ても、この道は、大変!」

 細い道を、車が二台、車体をかわしながらすれ違って行く。

 そんな細い道なのに、国道に抜ける近道なので、車がひっきりなしに行き交う。

 その端を、横ばいの蟹歩きで歩行者は行くしか無い。

 くぅばーたんは、武蔵さんのお見舞いに行く所だ。ガラガラとショピングカーを引いて。

 ショピングカーの中には、オムツがぎっしり。大人用のおむつだ。

 「入院するときは、一人で歩いて行ったのにっ」

 くぅばーたんは、機嫌が悪かった。荷物を引きながら車と電信柱を避けて歩くのは大変。

それ以上に、「オムツを持ってきましたよ」と告げられた時の武蔵さんの悲しそうな悔しそうな

顔を思うと、心が痛い。

 武蔵さんの入院している市立病院は、懸巣山の麓に在る。くぅばーたんの家から歩いて三十五

分ほどの所。

 「荷物の有るときは、車で送って行くよ」

 と、五郎さんは言ってくれるのだが、五郎さんの高校のときの美術の先生だった武蔵さんの気

持ちを考えると、五郎さんにオムツは運ばせられない。

 武蔵さんはモテモテおじいさんで、ガールフレンドも、生徒さんも沢山居て、お見舞客は大勢

くるが、オムツ運びを頼めるのは、くぅばーたんだけだ。

 (武蔵さんは、パパの恩人だもの)

 くぅばーたんのパパとママは、絵描きで、八歳になったばかりのくぅばーたんを、じいちゃん

ばあちゃんのところに残して、アメリカへ渡った。武蔵さんは、その頃の仲間だ。ニューヨーク

で一緒に勉強していた事が有ったが、くぅばーたんのパパは、三十八歳の若さで病気で亡くなっ

た。そのパパの遺骨を日本へ持ち帰ってくれたのが武蔵さん。

 (親切にしてあげなくちゃ)

 と、思った時、ブブーっとクラクションが鳴った。

 まるで、「ジャマだ、退け退け!」と怒鳴ってでも居るように。

 慌ててブロック塀に体を着けて、ノシイカのようになったが、ショピングカーは残されて、

ガタンと横倒しになった。

 横を、澄まし顔で高級外国車が走り抜けて行く。乗っているのは、おしゃれをしたマダム達。

一瞬の事だったが、笑い声が聞こえた気がした。

 くぅばーたんの目に、涙があふれて………!!

 (ちっともジャマなんかしてないでしょ!歩行者優先よ、訴えてやる!)

 声にならない声で叫んで、くぅばーたんは、道端のタンポポを折って、その綿毛をふーっ!

 (呪いの黒魔術、かけてやったぜ!)

 と、にやり………、それから、なに喰わぬ顔で、病院への坂道を登って行った。