32話 くぅばーたん10「『大志館』の開かずの間」

 くぅばーたんが、夕飯の支度をしていると、サーちゃんがやってきた。

 「ばあちゃん、ちょっと聞きたいんだけど………」

 「今晩は、フキとワラビの煮付けですよ。

うらの佐竹さんが山菜採りにいらしてね、フキとワラビを沢山戴いたのよ」

 「げっ、今日もかよ」

 「なんですか、その言い方は!春の味覚、有り難いでしょ」

 「今日のお返しは何?美味しそうな匂いしないけど」

 サーちゃんは、クンクンと鼻を鳴らした。

 「今日は、お返しなし」

 「じゃ、昨日のクッキーの残りは?」

 「テーブルの上の缶の中よ。さっき、皆が来てつまんで行ったけど………、

少しなら残っているかもしれない」

 「みんなって、ター君とナッちゃん?」

 「裕信くんと真一君も来たかしら」

 サーちゃんは、クッキーの缶を開けて一声。

 「ギー、たった1枚!ギギギー」

 「なんですか、カケスみたいな声あげて。残念でした、うふふっ!これでがまんしなさい」

 と、くぅばーたんは、冷蔵庫からレモンゼリーを出した。

 そのゼリーを食べながら、サーちゃんが、

 「お向かいの部屋のじいちゃん先生、もう病院から帰ってこないんでしょ。

あそこ空いたら、あたしお向かいの部屋に引っ越して来るよ」

 と、いった。

 じいちゃん先生というのは、1号室の画家の武蔵さんの事。

 くぅばーたんのお父さんの友達で、「大志館」に住み着いて四十七年。八十八歳の老人だ。

 老人だから、じいちゃん先生と呼ばれているのではなく、

皆のおじいちゃんの、五郎さんの高校の時の美術の先生だから。

 お正月から市立病院に入院中だ。

 「武蔵さんは、きっとお元気になります。変な事を言いふらしてはダメよ」

 「だって、キーちゃんが………」

 「又、キーちゃんですか。困った叔父さんだこと」

 くぅばーたんは、苦笑い。

 「そうか、じいちゃん先生、帰ってくるのか、残念」

 「残念なって、言わないで!武蔵さんは、大事な人よ。

でも、そんなに、あの………、ブラックホールの部屋が気に入らないの」

 くぅばーたんは、考えた。

 「一階の2号室は、サーちゃんの家で、二階の3号室はキーちゃんの部屋。

そのお隣の5号室は野口さん、6号室は谷さんで、その隣は美鈴の所で………。

そうよ、一階の突き当たりのお風呂場の脇の小部屋。あそこをサーちゃん、使いなさいよ。

サーちゃんのうちの隣なんだし、丁度いいじゃない」

 「やだよ、あんな『開かずの間』!あそこは地獄だよ!ばあちゃん知らないの?

あそこ、お化けが住んでるんだよ〜

 「あらー、知らなかったわ!へー、驚いた、お化けも住んでいるの、ここの家には」

 くぅばーたんでも知らない事が有るなんて!

 何て不思議な「大志館」。