30話 くぅばーたん8バス停事件のこと

 「大志館」は、南桑畑一丁目一番地に在る。

 南桑畑といっても、ここらに桑畑が有ったのは五十年も前の事。

 「大志館」へは、駅前からバスで三十三分。徒歩で二十二分、自転車で十分。

 歩くより、バスに乗ると時間が掛かるのは、バスが桑畑の後に出来た団地の間をぬって走っているから。

 そのバスは「大志館行」で、「大志館」は終点の「大志館前」のバス停の直ぐ前。

 「大志館」へは、「カケスニュータウン駅」で下りる。

 「カケスニュータウン駅」は、昔は、「懸巣山下駅」という駅だった。

 「大志館」は、「懸巣山下駅」から「大志館行」のバスで十分。「大志館前」下車一分の所に在ったのだ。

 それが、開発が進んで、桑畑が団地に生まれ変わると、

右に習えというように、あっちの畑こっちの畑に家が建ち並び、

いつの間にか、畑も林も山も無くなって、懸巣も姿を消してしまった。

 そして、「カケス建設」の「カケスニュータウン」が「懸巣山下」に取って代わった。

 それだけではない、懸巣村は、あっというまに合併して市になって、カケス地区を名乗ってしまったのだ。

 「たった三十年の間にですよ!」

 くぅばーたんは、悔しくてたまらない。

 「懸巣がカケスじゃ、巣も懸けられやしない」

 くぅばーたんがそういうと、

 「うまい、座布団一枚」

 と、五郎さんが拍手をした。

 「シャレではありません、これは闘争!」

 「闘争とは、物騒な。どんな意見を通そう・・・なんちゃってね」

 (これは、ぼくに座布団一枚ですかな)

 五郎さんは、心の中で自分に拍手をした。

 カケス地区だけでも、はらわたが煮えくりかえりそうに腹が立っていたのに、事も有ろうか、

今度はバス路線の名を変えると、市は決めて来たのだ。「大志館行き」を「カケスニュータウン行」に。

 おまけに、バス停も「大志館前」を「カケスニュータウン裏」に。

 「カケスニュータウン・・・裏?裏!

 くぅばーたんの怒りは大爆発!

 「ここは、私のおじいさまが、寒村の桑畑の中に、新しい文化の担い手となる若者を育成しようと

英語塾『大志館』を開いた場所。その文化に触れようと、中央から訪れる人も多く、バス路線が開かれて、

『大志館』は懸巣村の文化の中心でもあったのですよ。それを、ちょこざいな!カケス建設の千兵め!」

 と、バス停を団地の外れまで押し戻した。

 で、「大志館」は、バス停から七分掛かる事になって、駅からバスで四十分」になった。