怒り屋シゲサン

 「お前って、ほんと、笑い顔が気味悪いな」
友達にそう言われて以来、四十年間、シゲサンは笑った事がありません。誰もいない所でも、笑いません。
 笑わないように気をつけているうちに、シゲサンの顔つきは変ってきました。
 怒っていなくても、眉と眉の間に深いシワが寄って、機嫌が悪くないのに、横目でジロリと人を見ちゃう。
 「親をバカにしやがって」と親父に怒鳴られて、
 「やる気が無いのか!」と先生に叱られて、
 「生意気な奴だ!」と先輩に叩かれて。
 (ぐれてやる!)
 と、思いそうになった事もありましたけど・・・、
 根はまじめで優しいシゲサン。コツコツと勉強して、体を鍛えて頑張りました。
 「笑わなくてもいい、だけど人の役に立つ仕事をしよう」と。
 ある時、シゲサンは気がつきました。
 町の不良もチンピラも、シゲサンの姿をみるとこそこそと逃げ出す事を。
 「そうだ、悪を退治する仕事が良い。ヒーローになろう」
 と、思ったけれど、それはね・・・。
 「そうだ、警察官になるぞ!」
 でも、シゲサンの夢は、叶いませんでした。
 警察官は、皆に好かれなければならない仕事。いつもニコニコ、笑顔で「おはよう」です。
 「じゃ、先生になろう。にらみを利かして、皆を良い子にしてあげよう」
 でも、それもダメ。先生は、人気が一番。笑顔が決め手だそう。
 しかたなく、シゲサンは、昼間は銀行のガードマン。
 夜は、勝手に「町の怒り屋」になりました。
 「怒り屋」知りませんか?
 夜遅くまで遊んでいる子どもや、繁華街をぷらぷらしている若者に、
 「早く、家に帰れよ」
 と、声を掛けて歩く仕事。
 シゲサンに声を掛けられた子どもは、一目散に家に逃げ帰ります。
 シゲサンに睨まれて、言うことを聞かない若者はいません。
 シゲサンの怖い顔は、大いに皆の役に立っています。
 でも・・・、シゲサンは、淋しい。
 どこかでシゲサンに出会ったら、一言、言ってあげて下さい。

 「ありがとう」って。              

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