17話 悪魔の仕業 1

 悪魔の仕業って何でしょう?

 怪奇現象!超常現象!それとも凶悪犯罪!

 いいえ、私がお話したいのは、もっと普通の事。

 悪魔が、私たちの心の隙に忍び込んで、どんな悪巧みをしているかというと……。

 例えば、こんな朝のことです。

 ITの会社に勤めている高橋さんは、朝からイライラ。

 今日の会議で、大切な発表をしなければならず、心配なんです。

 「おい、コーヒーはまだか。何ぐずぐずしてんだよ」

 思わず、奥さんの沙織さんを怒鳴ります。

 「そんなに怒らないでよ」

 「時間が無いんだよ」

 「そんなこといったって、あたしだって」

 「今日は、今度のプロジェクトのことで、大切なプレゼンがあるんだぞっ!」

 沙織さんも声が、大きくなります。

 「仕事仕事って!昨夜、幸二が……」

 そういえば、小学一年生の幸二くんの姿が有りません。

 もう起きて支度をしなければ、学校に遅れます。

 「こんな時に子どもの愚痴か?」

 「愚痴なんか言ってないでしょう!」

 「もういい!朝飯は、いらない」

 二人のやり取りを、五歳の百合香ちゃんが、悲しい目で見ています。

 (お父さんもお母さんも、ケンカしないで)

 でも、ケンカはやみそうもなく……。

 バッタン!

 思いきり勢いよく、たたきつけるようにドアを閉めて、高橋さんは家を出て行きました。

 沙織さんは、「行ってらっしゃい」もいわないで、百合香ちゃんを怒鳴りました。

 「ぐずぐずしないで、さっさとパン、食べちゃいなさい。幼稚園に遅れるわよ」

 奥の部屋から、幸二くんが、

 「ママ、ちょっときてー」

 と、沙織さんを呼びました。

 「うるさいわね。ママの言うこと聞かないで、水遊びなんかするから熱出すんでしょ!

幸二のせいで、パパに叱られたんだからね!もう、知らない!」

 こんな光景は、よく有ることでしょうか?

 でもね、この後が大変!

 半べそで朝ご飯を食べて、大急ぎで幼稚園に連れていかれた百合香ちゃんは……、

 きげんが悪くてイライラしっぱなし。

 ブランコの取り合いで、友だちの新ちゃんを突き倒してしまったんです。

 それは、悲惨な怪我でした。

 新ちゃんにも、百合香ちゃんにも、一生消えない心の傷を残しました。

 これが、悪魔の仕業です。

 悪魔のわなにはまらないようにするには、油断なく戦わなければなりません。

 高橋さんが、あの時こういってたらどうかしら?

 「今日大切な仕事があるんだ。応援してくれ」

 沙織さんが、こう答えていたらどうでしょう?

 「幸二が昨夜熱を出してしまって……、つい寝坊したの。急いでコーヒー煎れるね」

 そうしたら、こんな風になってたでしょね。

 「それは、大変だったな。幸二を見てこようか」

 「大丈夫よ。今日一日、寝てれば直るでしょ。止めたのに、水いたずらしたから」

 「あはは、困った奴だ」

 「お兄ちゃん、バツ!」

 そして、百合香ちゃんは、上機嫌で、こういったに違い有りません。

 「パパ、お仕事頑張ってね」って。

 悪魔は、いつ心の隙をついてくるか分かりません。ご用心、ご用心。

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