115話 くぅばーたん80「くぅばーたんは、お金持ち!」

 「本当に驚きました。まさか、ミセス・聖子が亡くなるとは……」

 カケスの千兵さんの息子の、弁護士の克彦さんが、そう言って額の汗を拭いた。

 くぅばーたんのママが、今朝早く、死んだ。

 その知らせを持って、克彦さんは、飛んで来たのだ。

 「マリアが、『農場を売ったお金で、ママをいい病院に入れたい』と言って来たのは、本当の

事だったのねー。ママは、病気だったんだ」

 くぅばーたんは、一口コーヒーを飲んで、

 「おいしい!五郎さんが煎れたコーヒーは、やっぱりおいしいわ」

 と、五郎さんに微笑んだ。

 「そうか、それは良かった」

 五郎さんも、笑い返した。

 「依頼人が亡くなったので、今度の話は、無かった事になりました」

 克彦さんは、大きな溜め息をつきながらそう言って、それから、改まった態度で、

 「おばちゃんは、ママのお葬式には行かないんですか。行くんなら、ぼくがご案内しますよ。

どっちみち、相続の話の決着はつけなければならないでしょう」

 と、くぅばーたん様子をうかがった。

 くぅばーたんは、うなずいて、

 「でも、私は、アメリカへは行きません。代わりに、克彦さん、あなたが話をつけて来て下

ちょうだい。今度は、私が依頼人です」

 と、言った。

 五郎さんも、うんうんと、うなずいた。

 「それは、かまいませんが、どんな条件にするんですか?」

 「ブドウ園を、ママの息子の………、何て言ったかしら、名前は……」

 「ダイチさん。ダイチ・ウイリアムズ」

 「そのダイチさんが続けていくのなら、私の持ち分を、ダイチさんに売ります。ただし、お金

は要りません。今までの様に、出来たワインを送って下さい」

 「はー?それだけ?それだけで良いんですか?本当に?」

 「ええ。それが、ここの皆の希望ですから。あのワインは、「大志館」のパーティーに欠かせ

ません」

 克彦さんは、くぅばーたんの顔を見て、気が抜けた様に肩を落とした。

 「そんな……、欲の無い事では……」

 「弁護士さんが、儲からない?」

 「いやー、どんな手を使ってでも、財産の放棄をさせてこいと、ミセス・聖子は言ってたか 

ら、これはこじれる話だと思ってました。だから……」

 「気が抜けましたか?こうみえて、私は金持ちですから」

 そういって、くぅばーたんはククッと笑った。

 「お金といっても、円でもドルでもありませんよ。いうなら、心の豊かさでしょうかね。優し

い家族と可愛い孫達と気の置けない友人と隣人。居心地のいい家と素敵な庭。自然に包まれた故

郷。そして、美味しいコーヒー!これ以上の豊さを望む人が居ますか?」と。