|
|
|
美鈴さんは、窓の外の雨音に耳を澄ました。 (朝までに止むかしら) 明日、十月六日は、勤め先の幼稚園の運動会だ。何とか、予定通り実施したい。 十月の第一週の週末は、運動会ラッシュだ。 六日、土曜日は、ミーちゃんの保育園と美鈴さんの幼稚園の運動会。 七日、日曜日は、懸巣小学校の運動会。 八日は、カケス地区の合同大運動会。 なぜか、幼稚園と保育園の運動会は重なってしまうので、美鈴さんは、ナッちゃんの保育園の 時も、一度も運動会に行ってあげられなかった。ミーちゃんの時も同じ。 (この雨が、土曜日まで降り続いたら) 運動会は順延になって、日曜日に、ミーちゃんの保育園と美鈴さんの幼稚園の運動会と懸巣小 学校の運動会の三つが重なってしまう。 美鈴さんは、ミーちゃんの運動会だけでなく、ナッちゃんの運動会にも行ってあげられなくな る。 (ナッちゃんの運動会に行くの、初めてなのに) 美鈴さんは、こっそり寝床を抜け出すと、キッチンのテーブルで、てるてる坊主を作り出し た。 ナッちゃんの分とみーちゃんの分。 三個目の自分の分を作っている手を止めて、 「幼稚園勤め辞めようかな?」 と、声に出して言った。 そうすれば、 「自分の子どもを保育園に預けて、他人の子の教育ですか?」 なんて、皮肉を言われなくて済む。 運動会だって、遠足だって、お楽しみ会だって、出席してあげられる。 「園長が、代わるかもしれないし……」 専門学校二年のときに、実習で入った今の園の教育方針に感動して、卒業後勤め始めたのだ。 「『三のん』が我が園のモットーです。のんきにのんびり、ノン競争。子ども自身の発意を重 んじて、預かりましょう」 少子化の時代、園児獲得のためにあれこれ教育する事を売りにする園が多い中で、その方針は 見事だと思ったのだ。 だが、幼稚園を有名小学校の受験塾と勘違いしている親達からは不評で、加えて、園長の飲酒 運転事件で、来年の園児獲得は非常に厳しく、その上、園の地主が、土地を手放すつもりだから と言い出して、おお困り。 (でもね、子ども達は……) 幼稚園を必要としている子ども達にとって、のんきにのんびり過せる時間が、心のオアシスと なっている事は自負したい。 美鈴さんは、クルクルと器用に、三つ目のてるてる坊主を仕上げた。 「お母ちゃん、なにしてるの?」 ミーちゃんが、起きて来た。 「雨がやんで、運動会が出来ますように。そして、日曜に、ミーちゃんと一緒に、お兄ちゃん の運動会に行けますようにって、てるてる坊主にお願いしてるの」 そういいって、美鈴さんは笑った。
|