103話 くぅばーたん69「ター君の一等賞

 ター君は、泣きたくもないのに、自然と涙が出て来て、黒板の字がにじんで見えた。吐く息も、ふーふーと荒かった。

 「関口君、やめてー。鼻息、荒いー」

 隣の席の中村さんが、ター君の肩をおした。

 止めろと言われても、わざとやっている訳ではない。

 (そんな意地悪、言うなよ)

 と、言い返す言葉も声にならなくて……、涙がポトポトと、机に広げた画用紙に落ちるだけ。

 「あーあ、中村悪いな。ター君泣かした」

 後ろに居る隆君の声が、教室中に響いた。

 ター君は、ガタンと音を立てて、机に突っ伏して、肩を振るわせた。

 それからが、大変、大騒動。

 ワイワイガヤガヤ、おしゃべりが始まって、ター君の顔をのぞき込みに席を立って来る者、そ

れを止めようと洋服を引っ張ってもみ合う者、それを又止める者で、教室は蜂の巣をつついたよ

うになった。

 「皆、静かにしなさい」

 冬原先生の雷が落ちて……、シーン。

 「関口さん、具合が悪いんなら、保健室に行きなさい。保健委員、ついて行って」

 冬原先生が、ドアを指差しながら命令。

 「ぼくが、保健委員です」

 ター君は、椅子をガタガタさせながら立ち上がった。

 ター君は、いつ教室を出たのか、どうやって保健室にたどり着いたのか、ふわふわして分から

なかった。

 気がつくと、保健室のベットに寝ていた。

 目の前には、心配そうにター君の顔をのぞき込んでいるジーちゃんがいた。

 「目が覚めたか?家に帰ろうな」

 ジーちゃん、五郎さんがター君の身体を抱えて、ベッドから下ろした。

 ター君は、熱がぶり返していたのだ。

 五郎さんの車で、ター君は、伊勢医院へ直行。懸巣小学校の校医でもある伊勢医院は、学校の

すぐ裏だ。

 顔なじみの伊勢先生は、ター君の到着を待っていてくれた。

 「はい、口を大きく開けて……、喉が真っ赤だね。ゆっくり休んで、早く直さないとな。今度

の日曜は、運動会なんだろう」

 抗生物質とうがい薬をもらって帰る車の中、五郎さんがター君に言った。

 「運動会の練習も大事だけど、健康が一番大事だよ」と。

 ター君は、ううんと首を横に振った。

 「だって、今なら、ぼく、徒競走で一番なんだもん」

 背の順で並ぶ時、ター君の前に居る横川君が、金曜から風邪でお休み。

 おかげで、ター君はいつもとは違うメンバーと、徒競走を走っている。

 いつもなら、四等のター君が、そこでは一等賞!

 で、ター君は、運動会の練習を休みたくないのだ。