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ター君は、泣きたくもないのに、自然と涙が出て来て、黒板の字がにじんで見えた。吐く息も、ふーふーと荒かった。 「関口君、やめてー。鼻息、荒いー」 隣の席の中村さんが、ター君の肩をおした。 止めろと言われても、わざとやっている訳ではない。 (そんな意地悪、言うなよ) と、言い返す言葉も声にならなくて……、涙がポトポトと、机に広げた画用紙に落ちるだけ。 「あーあ、中村悪いな。ター君泣かした」 後ろに居る隆君の声が、教室中に響いた。 ター君は、ガタンと音を立てて、机に突っ伏して、肩を振るわせた。 それからが、大変、大騒動。 ワイワイガヤガヤ、おしゃべりが始まって、ター君の顔をのぞき込みに席を立って来る者、そ れを止めようと洋服を引っ張ってもみ合う者、それを又止める者で、教室は蜂の巣をつついたよ うになった。 「皆、静かにしなさい」 冬原先生の雷が落ちて……、シーン。 「関口さん、具合が悪いんなら、保健室に行きなさい。保健委員、ついて行って」 冬原先生が、ドアを指差しながら命令。 「ぼくが、保健委員です」 ター君は、椅子をガタガタさせながら立ち上がった。 ター君は、いつ教室を出たのか、どうやって保健室にたどり着いたのか、ふわふわして分から なかった。 気がつくと、保健室のベットに寝ていた。 目の前には、心配そうにター君の顔をのぞき込んでいるジーちゃんがいた。 「目が覚めたか?家に帰ろうな」 ジーちゃん、五郎さんがター君の身体を抱えて、ベッドから下ろした。 ター君は、熱がぶり返していたのだ。 五郎さんの車で、ター君は、伊勢医院へ直行。懸巣小学校の校医でもある伊勢医院は、学校の すぐ裏だ。 顔なじみの伊勢先生は、ター君の到着を待っていてくれた。 「はい、口を大きく開けて……、喉が真っ赤だね。ゆっくり休んで、早く直さないとな。今度 の日曜は、運動会なんだろう」 抗生物質とうがい薬をもらって帰る車の中、五郎さんがター君に言った。 「運動会の練習も大事だけど、健康が一番大事だよ」と。 ター君は、ううんと首を横に振った。 「だって、今なら、ぼく、徒競走で一番なんだもん」 背の順で並ぶ時、ター君の前に居る横川君が、金曜から風邪でお休み。 おかげで、ター君はいつもとは違うメンバーと、徒競走を走っている。 いつもなら、四等のター君が、そこでは一等賞! で、ター君は、運動会の練習を休みたくないのだ。
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