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不機嫌は、伝染するらしい。 くぅばーたんがぷりぷりしているせいか、にこにこ五郎さんの顔からにこにこが消えて、ただ の五郎さんになってしまった。 ただでさえ存在感の薄い五郎さんが、ただのじいさんになったのだ。 居ても居ないような………。 いや、どこに居ても、居づらいような……。 部屋にも、家にも、庭にも、畑にも居づらくて、散歩に出た。 九月も今日を残すばかりなのに、まだ暑い。 「地球までカッカしやがって」 と、いって、五郎さんはびっくり。 自分にビックリ! 争い事やら、もめ事とは無縁の人生で、こんな言葉を使った事が無い。 「しやがって!しやがって!」 確かに、郵便を配達していた頃は、犬に吠えられたり、人に怒鳴られたりで、イヤな思いもし た。だが、配達が忙しくて腹を立てている暇がなかった。 (暇だと腹が立つのかな?) 郵便局の窓口に座るようになってからも、訳の分からない苦情に悩まされた。だが、お客様の 言う事は、「無理」も「ごもっと」と考えもせずにひたすら頭を下げてやり過ごした。 (考えると腹が立つのかな?) 暇つぶしに、あれこれ考えながら歩いて、いつのまにか、五郎さんは駅前に出ていた。 今日は日曜日。おまけに駅前に出来た大型家電製品屋の開店日で、街は混んでいた。 店先で呼び込みをするお姉さん。マイクで売り場の案内をするお兄さん。携帯電話で怒鳴り合 う人々。 「こんな小さな町のどこから来やがったんだ、こいつらは!」 五郎さんは、人ごみにまで腹を立てた。 腹を立てたら、お腹もすいて来た。 時計も持たないで出て来たが、腹時計は十二時五分前。 「帰らないと、くーちゃんに叱られるな。『お昼ご飯なのに、どこ行ってたの』って」 と、思って、五郎さんは気がついた。 「なんで、いっつも、くーちゃんは僕を叱るんだ?ぷんぷん怒って!」 と、五郎さんは腹を立てて………。 (だが、まてよ) 五郎さんは、くぅばーたんの事を考えた。 いつも家に居るから暇で……、だけどやる事が多いから忙しくて、あの事この事、あの人の世 話,この人の世話と考える事が多くて、あっちからもこっちからも「ばーちゃん」「お母さん」 と始終呼ばれて………。 「くーちゃんが、オコリンボウなのは仕方が無いのかな?」 そう思った五郎さんは、 「どっちみち叱られるんなら、ラーメン食べて帰っちゃおーかな」 と、ラーメン屋さんのノレンを、ひょいとくぐった。 一人で外食は、学生時代以来の五郎さんだ。
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