100話 くぅばーたん67「ラーメン喰ってやるー!」

 不機嫌は、伝染するらしい。

 くぅばーたんがぷりぷりしているせいか、にこにこ五郎さんの顔からにこにこが消えて、ただ

の五郎さんになってしまった。

 ただでさえ存在感の薄い五郎さんが、ただのじいさんになったのだ。

 居ても居ないような………。

 いや、どこに居ても、居づらいような……。

 部屋にも、家にも、庭にも、畑にも居づらくて、散歩に出た。

 九月も今日を残すばかりなのに、まだ暑い。

 「地球までカッカしやがって」

 と、いって、五郎さんはびっくり。

 自分にビックリ!

 争い事やら、もめ事とは無縁の人生で、こんな言葉を使った事が無い。

 「しやがって!しやがって!」

 確かに、郵便を配達していた頃は、犬に吠えられたり、人に怒鳴られたりで、イヤな思いもし

た。だが、配達が忙しくて腹を立てている暇がなかった。

 (暇だと腹が立つのかな?)

 郵便局の窓口に座るようになってからも、訳の分からない苦情に悩まされた。だが、お客様の

言う事は、「無理」も「ごもっと」と考えもせずにひたすら頭を下げてやり過ごした。

 (考えると腹が立つのかな?)

 暇つぶしに、あれこれ考えながら歩いて、いつのまにか、五郎さんは駅前に出ていた。

 今日は日曜日。おまけに駅前に出来た大型家電製品屋の開店日で、街は混んでいた。

 店先で呼び込みをするお姉さん。マイクで売り場の案内をするお兄さん。携帯電話で怒鳴り合

う人々。

 「こんな小さな町のどこから来やがったんだ、こいつらは!」

 五郎さんは、人ごみにまで腹を立てた。

 腹を立てたら、お腹もすいて来た。

 時計も持たないで出て来たが、腹時計は十二時五分前。

 「帰らないと、くーちゃんに叱られるな。『お昼ご飯なのに、どこ行ってたの』って」

 と、思って、五郎さんは気がついた。

 「なんで、いっつも、くーちゃんは僕を叱るんだ?ぷんぷん怒って!」

 と、五郎さんは腹を立てて………。

 (だが、まてよ)

 五郎さんは、くぅばーたんの事を考えた。

 いつも家に居るから暇で……、だけどやる事が多いから忙しくて、あの事この事、あの人の世

話,この人の世話と考える事が多くて、あっちからもこっちからも「ばーちゃん」「お母さん」

と始終呼ばれて………。

 「くーちゃんが、オコリンボウなのは仕方が無いのかな?」

 そう思った五郎さんは、

 「どっちみち叱られるんなら、ラーメン食べて帰っちゃおーかな」

 と、ラーメン屋さんのノレンを、ひょいとくぐった。

 一人で外食は、学生時代以来の五郎さんだ。