古いズボン

 昔々、大昔。歩いて旅をしていた頃の亊。

 木の皮を裂いて、布を織って、自分が狩った獣の皮をなめして、ズボンをこしらえていた頃の話。

 ある村に、アーという若者がおりました。

 アーは、空の雲を見る度、

 「あの雲のように、自由だったらなー。どこまでもどこまでも、歩いていけたらなー」

 と、思っていました。

 川を上って行ったら、どこに行き着くのだろう?山の向こうには何が有るのだろう?

 日の沈むところには、何が待っているのだろう?

 未だ見ぬ土地に憧れていたアーですが、家には、体の弱い両親と、沢山の弟と妹がいました。

 家族はアーが頼りです。家族を捨ててはいけません。

 アーは、旅に出るのを諦めて、家族のために働いて、いつしか年を取っていきました。

 或る年の春。アーの許に、孫のナーがやって来て言いました。

 「爺ちゃん、おれは、川を上って、山を越えて、外の世界を見てみたい」と。

 アーは、自分が果たせなかった夢をナーに叶えてもらいたいと思いました。

 けれども、心配なのは、ナーの事です。元気者ですが、未だ幼い少年でしたから。

 一人で歩いていけるだろうか。一人で漁が出来るだろうか?獲物を狩る事が出来るだろうか?病気になったら?

 そこで、まだまだ元気なアーは、ナーと一緒に行こうと思いました。

 旅をしながら、自分が持っている知恵をナーに伝えようと思ったからです。

 旅は、なに事も無く、無事に進みました。

 8つ目の村にさしかかった時の事です。

 村の辻に市が立っていて、革のズボンを並べて居る男がいました。

 「もしもし、そこの古いズボンを履いている爺さん。

 この新しいズボンとそのズボンを取り換えておくれ。お代は要らないよ」

 アーは、不思議に思って、

 「こんな古いズボンを何に使うんだね」

 と、男に尋ねると、男が答えました。

 「ここに、少し破れてはいるが、まだまだ役に立つ革のズボンが6本有る。

 その修繕に古い革が必要なんだよ」

 そこで、また、アーが訪ねました。

 「どうして、新しい革を使わないんだね」

 男が首を横に振りました。

 「新しい革は強すぎて、古い革を傷める。古い革には古い革が一番さ」

 「古い革ズボンには、古い革。

 すると、新しい革ズボンには新しい………。そうか」

 アーは、じぶんの古いズボンを、新しいズボンと取り換えて、その新しいズボンを、ナーに穿かせました。

 そして、自分は、ナーが穿いていたいたズボンを穿いて、トットコ、今来た道を戻って行きました。

 「新しい革ズボンには、新しい革、若い頭には新しい知恵だ。

 新しい場所で、新しい知恵を自分で身につけておいで」

 と、ナーに言い残して。

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