春の贈り物

 やわらかな日差しが、春の訪れを告げています。
 野原には花が咲き、
その香りが鼻をくすぐります。
 思わずスキップが出るような、うきうきした気分です。
 うきうき気分のもとは、花の香りだけではありません。
 「神様が通る」季節だからです。
 この季節、街の外れの街道を、神様が通ると言われているんです。
 まだ、だれも、神様に出会った人はいませんが、人々はめいめいに美しい花を手に、街道に並びます。
 神様を見つけようと、目を凝らします。
 そして、神様に出会ったら、願い事をしようと待ちかまえています。

 今年は、キッタも街道に出ました。
 どうしても叶えてもらいたい、願い事が有るから。
 秋に引いた風邪が長引いて、いもうとのレイカの咳が止まらない。
 一晩中「コンコン」と苦しそうにせき込むレイカが、キッタはかわいそうでたまらないからです。
 「神様なら、きっとレイカの咳を止めてくれる」
 でも、キッタには、チューリップやスイトピーや水仙など、見事な花は手に入りません。
 足下に咲いているスミレの花をつんで、列の一番はじに並びました。

 やがて・・・。

 重たそうな荷物を担いだ男が、足を引きずってやってきました。
 誰も、花を渡そうとはしません。
 「あなたは、神様ですか?」
 キッタが聞くと、男はしずかに首を振りました。
 それでも、キッタは、持っていたスミレを男に差し出しました。
 男は花を受け取り、嬉しそうに、それを髪に差しました。

 間も無く、腰の曲がった老婆がやってきました。誰も、見向きもしません。
 キッタは、黙ってスミレをあげました。
 老婆はにっこり笑うと、それを髪に差しました。
 

 又、間も無く、立派な身なりの男と、腰に布をまいただけの痩せた男がやってきました。
 人々は、立派な身なりの男に尋ねました。
 「立派なお方、あなたは神様ですか?」
 男は、笑って、首をよこに振りました。
 人々はがっかりして、帰ってしまいました。
 キッタは、その男にも、スミレを渡しました。
 痩せた男にも、スミレを渡しました。
 二人の男は立ち止まって、
 「なぜ、私たちに花をくれるのです」
 と、キッタに尋ねました。
 キッタは楽しそうに微笑んで、
 「春だからです。みんなが待ってる、神様が来る季節だから」
 と、答えました。
 男達は頷いて、花を髪に差しました。
 その晩から、レイカの咳は止まりました。
      

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