長野歯科の待合室は、勝利君を心配する人でいっぱいだった。
勝利君の友達の和彦君。そのママの彩美さん。
和彦君のおじいちゃんで、長野歯科の院長の雅彦君と、東京から遊びに来ている和彦君の従弟 達。
長野歯科の受付の杉村さんと、勝利君の保育園の担任だった佐藤先生。
駅前の肉屋の正ちゃんと奥さんの国子ちゃん。
それに私達、私と五郎さんと千兵の三人。
「これは、探すべきでしょう。何としても、勝利君を見つけ出そう」
五郎さんが、きっぱりと言い切った瞬間、長野歯科の待合室に緊張が走った。
杉村さんが、吐き出すように言った。
「だけど、何でこんな日なんだろう。よりによって、月遅れのお盆でさ。探すにも、助っ人が居ない時じゃない」
杉村さんの意見に私も大賛成。
わが家にしても、長男家族はキャンプに行っちゃったし、長女の家族は静岡へ帰省中。
長男の嫁の麗さんは、地元で室内装飾の仕事をしているから顔が広い。おまけにPTA仲間も大勢いて、こんな時頼りになるはず。
長女の美鈴も保育園勤務で、顔が広い事では麗さんに負けていない。何より、そのお連れ合いの一也さんは市役所勤め。防災課だから頼りになること千人力なはずなのに。
あそこもここも皆留守で、人手が無い。
残っているのは、パソコンが仕事相手の二男のキーちゃんでは………。
「それもそうだけど、やれるだけやろう。まず、勝利君の叔母さん夫婦を捜し出して」
人が変わったようにてきぱきと指し図する五郎さん。顔つきまで違う。
さっき交番に呼び出されて以来、その夫婦の姿が見当たらなくなった。
「おお、そいつは任せな。うちの会社の連中なら、奴らの顔を知っているし、立ち回り先も知っているだろう」
千兵が、携帯電話を振りかざして応える。
佐藤先生も発言。
「保育園仲間に呼びかけて、勝利君の情報をもっと集めてみます」
それに反発するように、彩美さんが、
「情報だけではだめでしょう!きっと心細くて、泣いてるかも」
と、身をよじった。
「そんな悠長な事じゃ、手遅れになるかもしれない」
彩美さんと雅彦君は、今にも探しに出たいのだ。
「気持ちは分かるけど、ちょっと待って」
五郎さんが、二人を押しとどめて、
「うちの実家に寄って、古い配達地図を持って来るよ」
「配達地図?」
五郎さんの実家は、代々続く郵便局だけど。
「昔の配達地図には、防空壕の跡や、古井戸なんかの危険な場所が書き入れられているんだ。郵便配達の時に役立てる為にさ」
「そうだな、勝利君も防空壕の跡におっこってるかもな」
「それだけでなくても、危険な箇所が分かれば、効率的だ。そこから探してあげたほうが良いだろう」
我が夫ながら、さすが優しい五郎さん。目の付けどころが違う。心の中で拍手よ。
「三十分で情報を集めて。三十分後に捜索の作戦を決めよう。その間に、手伝いの人も出来るだけ集めよう。僕も、昔の郵便配達仲間を当たってみる。ああ、交番にも顔出しておく」
「うちの車使って。僕が運転するよ」
「カケス山下の老人パワーを見せてやろう」
「よっしゃ!エイエイオー!だ」
五郎さんに雅彦君。千兵に肉屋の正ちゃん、
カケス山下小学校の同級生は、勇んで出ていった。
私は、とりあえず、キーちゃんに電話かな。